翻訳:王 瀟慧、呉 先銀、龍 敏、申 定微
修正:長尾 康岐
監修:姚 武強
新華社通信によれば、2018年7月2日、中国貴州省の梵浄山(ぼんじょうさん)がバーレーン・マナマで開催された世界遺産委員会において、世界自然遺産リストへの登録が正式に承認された。これにより梵浄山は、中国で53番目の世界遺産、かつ同国の世界自然遺産の一つに数えられることとなった。貴州省としては、荔波(南中国カルスト)、赤水(中国丹霞)、施秉(南中国カルスト)に続く4件目の自然遺産であり、さらに同省で初めて単独で申請・登録された自然遺産でもある。この結果、貴州省は中国で最も多くの自然遺産を有する省となった。
では、なぜ梵浄山が世界自然遺産にふさわしいと評価されたのだろうか。
梵浄山は国家AAAA級観光地であり、同時に国家級自然保護区として指定されている。別名「梵天浄土」とも呼ばれる名峰で、中国十大名山の一つに数えられ、武陵山脈の主峰として知られる。森林被覆率は95%に達し、希少な仏教道場も所在するなど、自然と文化の双方において価値が高い。形成はおよそ14億〜10億年前にさかのぼり、中国南部に残る最古級の地質構造の一つとされる。原生代から古生代、新生代に至るまでの多様な地層が露出しており、地質学的にも重要な地域である。
さらに、中国南部における先カンブリア紀研究の拠点としての学術的価値を持ち、独自の研究成果も積み重ねられてきた。また、この地域は亜熱帯特有の希少な生態系を保持し、多様な野生生物の生息地でもある。推定7000万年前から200万年前にかけての古生物資源を今に伝え、極めて豊かな生物多様性を有している。
梵浄山は変成岩を基盤とし、周囲を広大なカルスト地形に囲まれている。その姿はまさにカルスト海に浮かぶ「生態系の孤島」ともいえるもので、地質学的・生態学的・生物学的、そして景観的に唯一無二の特徴を示している。
大地の悠久の歴史と豊饒な生命の営みを宿す梵浄山。その類まれな美を、ぜひ一度ご自身の目で体験してみてはいかがだろうか。
第一 豊かで独自性に富む自然環境
武陵山の頂にそびえる梵浄山
梵浄山は、中国貴州省に位置し、雲南・貴州高原から湘西丘陵へと移行する地帯にあたる。武陵山脈の主峰であり、最高標高は2,570メートルに達する。鳳凰山の最高峰(標高2,572メートル)をはじめ、周囲との比高差は2,000メートルを超え、その雄大な地形は他に類を見ない。
中国南部に残る最古級の大地
この地域は、かつて海底から陸地へと姿を変えた場所であり、その地質の歴史は実に10億~14億年前にさかのぼる。長い地質発展の過程を経て形成されたこの地帯は、中国南部における最古の地質構造のひとつとされ、湖北省西部の神農架と並ぶ重要な地質研究の対象地域でもある。
同緯度における唯一の「緑のオアシス」
1986年、ユネスコは梵浄山を世界の「人間と生物圏計画(MAB)」の保護地域ネットワークに登録した(当時の中国では5地域のみが登録)。14億年もの悠久の時を経て、梵浄山はまるで「ノアの方舟」のように、567平方キロメートルに及ぶ原生林を守り続けてきた。周囲の同緯度地帯が砂漠化の進行に晒される中で、梵浄山のみが原始の熱帯・亜熱帯林を今日まで残しており、その存在は極めて希少である。
動物・植物の「生きた遺伝子バンク」
梵浄山の特異な地質構造と隔絶された気候環境は、人間活動の影響を最小限に抑え、同緯度地域において世界屈指の生物多様性を維持している。森林被覆率は90%を超え、亜熱帯の希少な自然生態系を保持するこの地は、多数の希少動植物の重要な生息地となっている。そのため、7,000万年前から200万年前にかけての第三紀および第四紀に由来する古代的な動植物相が、現在も豊かに残存している。
ここには、キンシコウ(仏教聖猿)、ウンピョウ(雲豹)、カモシカ類、マカク類、センザンコウ(穿山甲)、アジアクロクマ、各種のキジ類やフクロウ類など、希少な野生動物が数多く確認されている。なかでも国宝級とされる代表的な種は、霊長類のキンシコウと、植物のハンカチノキ(ダビディア)である。
キンシコウの唯一の生息地
今から百数十年前、イギリス人宣教師トムソンが偶然に入手した一枚の不完全な皮に基づき、「貴州のキンシコウ」が学界に知られることとなった。しかしその後、現地での確認は長らく途絶え、存在は半ば伝説と化していた。
その沈黙を破ったのは、南西動物研究所の研究者たちである。彼らは梵浄山で長期間の調査を行い、実に60年以上姿を消していたキンシコウの群れを再発見したのである。
現在、キンシコウは「島」のように隔絶された梵浄山にのみ生息しており、その分布範囲は極めて限られている。野生個体数はジャイアントパンダよりも少なく、科学者たちはその希少性から「世界にただひとつ残された子ども」と形容している。
第二 世界的に知られる景観
紅雲金頂(こううんきんちょう)
「新金頂」とも呼ばれる紅雲金頂は、地表からそびえ立つ巨岩で、最大垂直差はおよそ100メートルに及ぶ。頂部は二つに分かれ、石橋でつながっており、それぞれの峰上には寺院が建てられている。一方は釈迦牟尼(現世の仏)、もう一方は弥勒仏(未来の仏)を祀り、過去・現在・未来を象徴する聖地となっている。朝日を浴びると周囲に紅雲がたなびき、角度によっては仏の手や生命のトーテムを思わせる神秘的な姿を見せることから、「天下第一峰」とも称される。
観音洞
山頂近くには観音洞と呼ばれる奇岩の洞窟があり、外壁には溶岩から湧き出す水が伝う。古くから人々が祈りを捧げてきた霊験あらたかな場所である。
金刀峡
観音洞を過ぎると山頂は二手に分かれ、その間に深い峡谷「金刀峡」が口を開く。幅はわずか1メートルに満たず、天を貫く裂け目のような壮観を呈している。
天橋
金刀峡には石造りのアーチ橋「天橋」が架かる。幅0.86メートル、長さ5.41メートルの小さな石橋だが、断崖の間をつなぐその姿は圧倒的な存在感を放っている。
釈迦殿と弥勒殿
紅雲金頂の二つの峰には、それぞれ釈迦牟尼を祀る「釈迦殿」と、弥勒仏を祀る「弥勒殿」が建てられている。両殿を結ぶ石橋は、現世と未来を象徴的に繋ぐ架け橋とされる。また、近隣には「燃灯寺」があり、過去・現在・未来を表す三仏の思想を体感できる。
承恩寺
紅雲金頂の山頂に建つ主要伽藍で、明代初期に創建された。もとは鎮江寺(現在の天王寺)と合併した歴史を持ち、梵浄山寺院群の中核をなす存在である。
石楠(シャクナゲ)の長廊
紅雲金頂からは、緑に覆われた道がどこまでも続く光景を望むことができる。毎年5月から6月にかけては、シャクナゲが一斉に咲き誇り、山を彩る花の回廊となる。
梵浄山の名勝
「キノコ石」
まるでキノコのような形をした巨石で、高さは約10メートル。ほっそりとした姿で、今にも倒れそうに見えるが、実際にはびくともせず、風雪に耐えながら10億年の時を静かに刻んでいる。
「翻天印」
奇岩が林立する石の森の中に、巨大な印章のような石がある。古くから「翻天印」と呼ばれ、人々はここで祈りを捧げてきた。
「老金頂」
かつて「月境山」と呼ばれた場所。老金頂から見下ろすと、石林が連なり、起伏する山々や果てしなく広がる森と草原が眼前に広がる。その光景は、まるで青い海が大波を打ち寄せているかのようで、壮大な気勢を漂わせている。
「万巻書」
頂上に立つと、折り重なる山々が果てしなく連なり、まるで幾万巻の書を積み重ねたように見えることから、この名が付けられた。
「燃灯殿」
梵浄山で最も高所にある寺院。明代に山の石で築かれ、清代に修復された。堂内には蓮華灯を捧げる古仏が祀られ、過去世を象徴している。
「九皇洞」
洞窟の入口には古碑が残されている。伝説によれば、かつて九条の竜がここで修行を積み、やがて九皇に召されて昇天した。その時、峰が震動し、崖には九条の竜の姿が刻まれたという。この故事にちなみ「九皇洞」と呼ばれる。
「果然寺」
燃灯殿の下に位置する古寺で、明代の遺構が残っている。今は雲霧に包まれ、幽玄な気配を漂わせる。
「拝仏台」
新金頂を一望するのに最適な場所。白雲が流れ込むと、景色は刻々と姿を変え、幻想的な趣を醸し出す。
「太子石」
山奥の深い谷間にそびえ立つ巨石。その堂々とした姿から「太子石」と呼ばれている。
「鳳求凰」
拝仏台から眺めると、金頂の上に二つの突起を持つ巨大な石が見える。その形は鳳凰が向かい合う姿に似ており、「鳳求凰」と称される。
「万宝岩」
下山道に佇む一見地味な大石。表面は荒々しいが、背面には数十種類もの植物が根を張り、まさに生命の奇跡を物語っている。この岩に目を凝らすと、梵浄山の神秘が一草一石に宿っていることを実感できる。
「浄心池」
登山道沿いの洞窟から清泉が湧き出す。水は澄み切っており、直接飲むこともできる。心を洗うかのような清らかさから「浄心池」と呼ばれる。
「鳳凰山」
標高2,572メートル、武陵山脈の主峰であり、梵浄山の最高峰。ロープウェイ駅からは雄大な武陵山の全景を望むことができる。
「ロープウェイ」
梵浄山のロープウェイは壮観そのもの。晴れた日には遥か彼方の原始林を見渡せ、霧が立ち込めると幻想的な光景が広がる。雲海が湧き上がり、霞が漂う様は、天空に浮かぶ舟のように雄大である。
「万米睡仏」
全長一万メートルに及ぶ山容は、横たわる弥勒菩薩の姿を彷彿とさせる。古来より「山は仏、仏は山」と称えられてきた神聖な景観である。
第三 四季の風情
梵浄山は十四億年の歳月を経て、なお新たに生まれ変わる山である。悠久の時を映すその大地には、四季の移ろいが鮮やかに刻まれている。
春の梵浄山
雲上の高山にはサツキが咲き誇り、赤は炎のように燃え、桃色は霞のように淡く漂う。その彩りは圧倒的で、訪れる人々の心を奪う。
夏の梵浄山
山は濃い緑に包まれ、鬱蒼とした森と清らかな泉が生命の息吹を響かせる。日の出に輝く朝の光、夜空に瞬く星々――夏の梵浄山は、霧とともに人々に涼やかな清新さをもたらしてくれる。
秋の梵浄山
一年でもっとも鮮やかに彩られる季節。白雲を纏い、真紅の木の葉をまとった姿は、まるで美しい女性へと変身したかのようである。
冬の梵浄山
一面の銀世界は、肉眼では捉えきれない色彩と想像力の世界を呼び起こす。雪に覆われた梵浄山は、人々を無限の幻想へと誘う。
第四 天空の奇観
仏光
日の出や日没の際、山頂付近ではしばしば、雲の中に虹色の光輪「仏光」が現れる。伝説によれば、それを見ることができた者は、仏に深く帰依する善き行いを積んだ人とされる。統計によると、梵浄山は中国の名山の中でも仏光の出現回数が最も多い場所として知られる。
雲海
「風に運ばれ、仙境に出会う」――これこそが梵浄山の雲海の姿である。雲は時に無限の綿布団のように広がり、時に薄絹のヴェールのように山々を覆う。その変幻は、まさに神秘の舞である。
雲の滝
突如として現れる雲は、風に押されて谷へと流れ落ち、滝のように見える。時に大波のごとく押し寄せ、時に山々を包み込み、千里の景観をも呑み込む。その幻想は仏光の発生と重なることもあり、雲の中に自らの影を映した七色の光輪を目にすることができる。
禅の霧
梵浄山を包む霧は「禅の霧」と呼ばれる。発生の方角も時刻も思いのままならぬが、自然そのものの現れである。その中に身を置けば、心も体も澄み渡り、この上ない静けさと感動に満たされる。
梵浄山の美食
江口米豆腐
江口米豆腐の主な原材料は、梵浄山の貢米、藁灰、桐殻灰である。藁灰や桐殻灰に水を加えてアルカリ性の灰汁水を作り、その水に梵浄山の貢米を浸す。数時間後に米を粉にし、錠状に成形して蒸し上げると、江口米豆腐が完成する。淡い黄色を帯びた透明感のある仕上がりで、刻んでエビと合わせれば「エビ米豆腐」となり、さらに油唐辛子や酸味のある唐辛子で煮込むと柔らかく深みのある味わいになる。子どもから高齢者まで幅広く愛される郷土料理である。
鍋粑粉(グオバーフェン)
銅仁の人々にとって欠かせない米粉料理。特殊な米粉を用い、緑豆、ピーナッツ、レタスなどを添えて食す。細長い条状を呈し、表面は紙のように薄く、口に含むと緑豆粉のような独特の風味が広がる。
角角魚(ジャオジャオユー)
梵浄山を訪れたなら必ず味わいたい名物料理。香り高く、食欲をそそる味わいで、塩味・酸味・甘味など好みに応じた調理が可能である。地元の店先では常に行列が絶えないほど人気があり、一度食べれば忘れられない美味しさだ。
社飯(シャーファン)
銅仁の伝統食で、青蒿を用いて調理される。もち米とうるち米を混ぜ、ベーコン、ニンニク葉、蒿菜、塩、うま味調味料を加えて仕上げる。ベーコンの香ばしさと米油のあっさりした風味が絶妙に調和し、観光客からも好評を得ている。
蒿菜粑(ハオツァイバ)
梵浄山周辺の土家族・ミャオ族・トン族の地域に伝わる代表的な郷土食で、国家級景勝区の名物として知られる。貴州では「白蒿」を「粑粑蒿」とも呼び、これを用いた蒿菜粑はほろ苦さの中に爽やかな香りが漂い、独特の風味を醸し出す。
蕨粑(ジュエバ)
ワラビの根からデンプンを抽出して作る料理。水に混ぜて沈殿させた後、煮るか炒って仕上げる。黄黒色で、柔らかくねっとりとした食感が特徴的である。炒めると黒色に変化し、海藻のように見えるが、実際には甘みがあり栄養も豊富。蒜苗や酢豚風の料理と合わせると、食欲をそそる一皿となる。
江口干豆腐
江口の名産で、十数もの工程を経て作られる風味豊かな干豆腐。製造は複雑だが、その奥深い味わいは多くの人々を魅了している。酒肴としても最適であり、油で揚げたり、細切りにして肉と炒めたりと、調理法の幅広さも人気の理由である。
梵浄山の世界遺産登録までの歩み
⚫︎1978年 貴州省の自然保護区に正式指定される。
⚫︎1986年 国家重点自然保護区へと格上げされ、同年にユネスコの「人間と生物圏計画(MAB)」ネットワークに加盟。
⚫︎2013年1月12日 第2回銅仁市人民代表大会において、世界遺産登録を目指すことが正式に発表される。
⚫︎2013年10月29日 「中国国家自然遺産保護区リスト」に登録される。
⚫︎2015年10月 世界遺産登録に向けた国内プレ審査に出席し、「生物多様性と生態学的プロセス」を評価基準とする独自の価値が、多くの国内外専門家から高く評価される。
⚫︎2016年9月 世界遺産登録申請の準備が完了。
⚫︎2017年1月28日 中国国務院が梵浄山の世界自然遺産申請を正式に承認。
⚫︎2017年9月26日 梵浄山自然保護区が「中国天然酸素バー」の称号を獲得。
⚫︎2017年10月10日〜17日 国際的な専門家による現地調査と評価が実施される。
⚫︎2018年6月 梵浄山は世界自然遺産として正式に登録された。
梵浄山観光の注意事項
1、バス・鉄道・自転車など公共交通機関を利用する際は、必ず身分証明書を携帯すること。
2、天候を事前に確認し、雷雨の際は登山を避けること。
3、快適な登山靴を選び、防寒具を準備すること。
4、山頂には宿泊施設があるが、その他の場所で宿泊する場合はテントを持参すること。
5、山の天気は変わりやすいため、嵐に遭遇した際は断崖からできるだけ離れること。
6、秋季に登山や森林散策をする際は毒蛇に注意し、消炎剤や風邪薬などの常備薬を携帯すること。
7、梵浄山は亜熱帯性気候に属し、特に秋は朝晩の寒暖差が大きい。にわか雨に備えて雨具を用意し、天気予報をこまめに確認すること。