翻訳:彭 詩琦
修正:小川 恵佳
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
馬嶺河渓谷は、貴州省黔西南布依族苗族自治州興義市の境内を流れる南盤江の支流・馬嶺河に位置する。東北へは省都・貴陽から約334キロメートル、西へは昆明から約321キロメートルの距離にあり、景勝地全体の面積は344平方キロメートルに及ぶ。ここは「万峰・千島・百滝・奇谷」と称され、彩絵のように美しい「地縫」(地層の割れ目によって生じた谷)を景観の特色とする名勝である。
景区内には数多くの歴史遺跡が点在し、濃厚な民族文化の薫りが漂う。また気候は温暖湿潤で、年間平均気温は15~18℃。四季を通じて春のように穏やかで、昼夜の気温差も小さい。そのため、静けさを求める人々や、景勝の観賞、歴史探訪、避暑やレジャーを楽しむ旅行者にとって理想的な場所となっている。
渓谷は雄大・奇巧・険峻・秀麗の諸要素を兼ね備え、谷間をいくつもの滝が飛瀑となって流れ落ち、青々とした竹が谷壁に垂れ下がり、溶洞群は互いに連なり合う。炭酸カルシウムが織りなす奇観や、両岸にそびえる古木・名木の多様な姿もまた、訪れる者を魅了する。こうした景観は「地球上でもっとも美しい傷跡」と称され、中国における国家級重点風景名勝区にも指定されている。
馬嶺河渓谷は、カルスト地形が多段階に展開する壮大な景観の集大成であり、とりわけ「地縫状峡谷」と呼ばれる特殊な地形と、そこに懸かる無数の滝や石灰華の壁飾りが大きな特色を成している。その地形的構造は一般的な峡谷とは異なり、実際には地層の断裂によって形成された「地縫」である点に大きな特徴がある。
天星画廊
天星画廊は興義市中心部から約6キロの地点に位置し、馬嶺河渓谷観光区の中でもとりわけ圧巻の景勝を誇る。壮大な滝群と石灰岩の断崖が織りなす「岩壁の壁掛け」が、主要な景観的特徴を成しており、その景色はまさに一絶と称されるにふさわしい。馬嶺古橋から天星橋までの9.7キロの区間には実に56本もの滝が点在し、そのうち年間を通して流れ続ける滝は36本に及ぶ。石筍や石柱、石灰華(マントル)、そして積み重なった鍾乳石などが立体的に組み合わさり、まるで「瓊楼玉宇(けいろうぎょくう)」と形容される幻想的な光景を作り出している。
景区内には、彩岩峡、三古峡、天賜石窟、五里幽谷、彩水河、古駅道、霞光浴場、イルカ礼拝、絵画遊覧、雨打芭蕉、そして天星橋など、数々の特色ある自然景観が連なり、訪れる者を魅了してやまない。
馬嶺河渓谷全体の長さは74.8キロメートル、幅は50~150メートル、深さは120~280メートルに達し、谷底は地表よりも約200メートル低い位置に広がっている。「万峰に囲まれ、千泉が谷に帰り、渓水が逆流し、川が岩を打つ」と謳われるように、ここには多彩な峡谷の奇観が育まれてきた。
天星画廊の特色
1、岩壁と滝の壮観
峡谷の両岸は雄大かつ壮麗な規模を誇り、入り組んだ石灰岩の断崖が特有の「岩石滝」を形成している。
2、豊富な滝群
観光区全体には大小あわせて百を超える滝が存在する。とりわけ天星画廊の約1.7キロの区間には、カップル滝、万馬奔騰滝、真珠滝、少女のヴェール滝、間欠五畳滝、雨打芭蕉滝、黄龍滝など、20本以上の滝が集中している。
3、無数の水簾洞
一般にはあまり知られていないが、渓谷内には数多くの「水簾洞(すいれんどう)」が存在し、神秘的な景観を形づくっている。
馬嶺河渓谷を歩けば、自然の無限の妙趣を体感することができる。峡谷は奥深く、桟道は断崖を縫うように曲折しながら続き、進むほどに新たな景観が開ける。その道行きはまるで一幅の絵画に足を踏み入れるかのようで、一歩ごとに景色は異なり、夢中で遊覧するうちに時を忘れてしまうほどである。
古くから「石は雲よりも奇なり。このような絶景は描き難く、奇を表すには詩しかない」と詠われた。まさに馬嶺河渓谷は「空山の詩」として、多彩な「百画・百滝・百簾・百泉」の奇観を育んできたのである。
馬嶺河渓谷
馬嶺河渓谷は、大地を深く切り裂いたような凹形の河谷を形成し、その両岸は墨色の断崖が屏風のようにそびえ立ち、まるで巨大な絵画を掛け並べたかのようである。渓谷の岩壁には約110枚におよぶ天然の「岩絵」が描かれており、これが景勝地を彩る「百画」を構成している。
さらに、この渓谷には100を超える水簾洞と56本の大小さまざまな滝が存在する。滝の高さは120〜170メートル、幅は5〜100メートルに及び、銀河の切れ端のように壮大で、絹の紗を垂らしたかのようにしなやかで美しい。その姿は「百滝」と称され、馬嶺河渓谷の象徴的な景観となっている。
また、景区内には洗心泉、車榔温泉、千眼泉、天潭、地潭などを含む120か所余りの名泉が湧き出し、これらは「百泉」として知られる。
馬嶺河渓谷が位置する雲貴高原は、世界最大規模でカルスト地形が分布する地域である。本渓谷は、雲貴高原の隆起部である烏蒙山と広西丘陵の間にあり、三畳系の炭酸塩岩が広く分布する地域に属している。複雑な褶曲構造と断裂をもつ地質により、カルスト特有の多段階・多様な地形が集中的に展開されている。東には黄果樹瀑布、西には雲南路南石林を擁し、いずれも中国カルスト景観を代表する存在として並び称される。
馬嶺河は烏蒙山系の白果樹嶺を水源とし、上流では「清水河」と呼ばれる。中流域に馬別大寨と馬嶺寨の二つの村があることから「馬嶺河」の名が付いた。南盤江北岸の一級支流として流れるこの川は、長年にわたる雨水の侵食作用によって深く細長い地溝を刻み込み、独特の「地縫」景観を形成している。上から見下ろせば一本の大きな裂け目(地縫)、下から仰ぎ見れば天空に通じる溝(天溝)のように映る。
河口までの流路は約100キロメートルに及び、全体の落差はおよそ千メートル。標高1200メートルの平坦地に刻まれた渓谷は74.8キロにわたり、両岸から注ぐ支流は主流の浸食速度に追いつけず、百メートル級の滝となって次々と谷底へと落ち込んでいる。峡谷の幅は20〜400メートル、深さは50〜500メートルに達し、その狭さと深さは極めて稀有である。
さらに、馬嶺河の水には豊富な炭酸カルシウムが含まれており、滝が落下する過程で二酸化炭素を放出しながら石灰華を崖面に沈積させる。その結果、長い時間をかけて厚みを増した石灰化の滝群が形成され、雄大で荘厳な景観を生み出している。天星画廊の断崖には、総面積30万平方メートルを超える石灰滝が広がり、無数の峰や滝と織りなす光景は、世界でも稀にみる壮観である。
馬嶺河渓谷
馬嶺河渓谷に広がる滝群は勢いよく流れ落ち、鋭い錐峰が林立する壮観な景色をつくり出している。両岸の峰々には古寺、古橋、古戦場、古道などの歴史的景観が点在し、豊かな人文的背景と神秘的な趣を漂わせている。景区は景観の特徴に応じて、上流から順に車榔温泉、五彩長廊、天星画廊、趙家渡景区の四つに分けられる。
谷を流れる川の水は澄み渡り、陽光を受けてきらめく。観光客は漂流を楽しみながら、峡谷の雄大な風景を体感できる。両岸には「彩崖峡」と呼ばれる断崖がそびえ、灰色の岩肌の上にオレンジ、灰白、紫、緑といった多彩な色彩が縞模様となって広がる。その姿はまるで巨大なカラースクリーンのようで、水面に映ると虹のような模様が流れとともに揺らめき、幻想的な光景を生み出している。
峡谷の奥に進むと、断崖には苔や植生が幾重にも重なり合い、少女の舞うスカートや蓮のつぼみ、あるいは海底の花のように見える。自然が描き出す絢爛な壁画は、馬嶺河の景観美をさらに際立たせている。
飛瀑の下には天然の大浴場が広がり、陽光に照らされた水しぶきがきらめいて、まるで瑶池のような光景を呈する。遊覧船での漂流はスリリングで、自らに挑戦しながら大自然の神秘と壮麗さを実感できる。
峡谷の両岸には切り立った岩壁が迫り、谷底を急流が走る。無数の滝が銀の帯のように流れ落ち、岩と水が激しくぶつかり合って轟音を響かせる。断崖には「百画」と呼ばれる天然の岩絵が刻まれ、無数の泉や岩穴が点在する。川面に映る青空と白雲は、峡谷全体を天に通じる溝のように見せ、峡谷大橋から見下ろすと、奔流がまさに「地縫」の姿を形づくっている。とりわけ石灰華の滝群は規模と独自性において群を抜き、豊かな自然環境とともに「西南奇縫、天下奇観」と称される景観を構成している。
馬嶺河渓谷では、谷に登って絶景を眺めることも、谷底で漂流を楽しむこともできる。現在、全長47.8キロの漂流区が開放されており、両岸は切り立った断崖に囲まれ、川の流れは緩急を織り交ぜる。ゴムボートで200メートル以上の落差を下るスリルは、訪れる者を手に汗握らせる。全長50キロ以上の漂流区には、80か所を超える急流、70余りの深潭、60以上の湾曲部があり、変化に富む地形が冒険心をかき立てる。
この漂流区は1993年7月にオープンし、1997年には中国史上初となる「国際急流カヌー招待試合」が開催され、「神州第一漂」の名を得て多くの漂流者を魅了した。さらに1998年には第一回中国国際カヌー漂流大会が行われ、2005年には国家の公式な激流カヌー訓練基地に指定されている。
車榔温泉は、馬嶺河上流に位置する布依族の古寨・車榔に湧き出しています。峡谷は寨の前を流れ抜け、その両岸には二つの温泉があり、左岸は「息子の泉」、右岸は「娘の泉」と呼ばれています。泉温はおよそ38〜40℃で、一年を通して澄みきった湯が湧き出しています。古くから布依族の人々は、この川辺の湯に身を浸し、大自然の恵みを享受してきました。その情景は今もなお風情にあふれています。
また、龍蔭から馬嶺鎮までの約20キロにわたる峡谷は「五色の回廊」と呼ばれています。谷内には三つの清泉が流れ、山と水が互いに呼応し合って息づく姿は「一彩」と称されます。馬保樹龍頭山の鍾乳洞からは高きより滝が落ち、水煙は草木を揺らし、虹と共に輝きます。これが「二彩」です。さらに、せせらぎをたたえる清泉には水生生物が行き交い、その生命力に満ちた光景が「三彩」と呼ばれます。百花繚乱の草木は水に育まれ、風に揺れて生気を放ち、これが「四彩」。そして、猪場川や木槌河の清流が合わさり、瑤池にも喩えられる絶景を生む様子が「五彩」とされます。
馬嶺河渓谷周辺には、万峰林(東峰林・西峰林)をはじめ、万峰湖、貴州龍化石博物館、「猫猫洞」や「張口洞」の旧石器時代遺跡、漢墓群、劉氏荘園、さらに国民政府の前軍政部長・何応欽の旧居など、多彩な自然景観と人文景観が点在しています。
万峰林は東峰林と西峰林に分かれます。東峰林は無数の峰が連なり、西峰林は山寨と田園が調和して映える景観を見せます。その姿は「大自然の山水画」あるいは「天然の大盆栽」とも称えられています。
万峰湖は「雲貴高原の真珠」と称される人工湖で、大小無数の島や半島が点在し、天然の山水盆景を形づくっています。湖面には遊覧船が行き交い、白鷺や赤いカモメが舞い降ります。石林や布依族の古寨、峰林の絶景、峡谷の断崖が水面に映り合い、湖岸にはミャオ族や布依族など、風情豊かな少数民族が暮らしています。
「貴州龍」の化石群は、今からおよそ二億四千万年前、中生代三畳紀に属するもので、恐竜の卵の化石よりもさらに一億年古い歴史を持ちます。
また、峰林の中には、国民政府の前軍政部長・何応欽の旧居や、北伐軍・護法軍総司令を務めた王文華将軍の旧居も残されています。