石阡万寿宮は、貴州省石阡県の県城・湯山鎮城北路に位置し、明の万暦16年(1588年)に創建されました。建築面積は約2,300㎡に及び、貴州省に現存する万寿宮の中でも最大規模であり、かつ保存状態の最も良好な建築の一つとして知られています。
建物の東側には前殿があり、許真君(道教の護法神として信仰される人物)をはじめとする神々が祀られています。その両側には紫雲宮と聖帝廟が並立し、西側には舞台が設けられています。この舞台に施された浮彫りは精巧で、木彫の人物像は今にも動き出しそうな迫力を湛えています。
万寿宮はまた、中国唯一の儺劇(なげき)博物館としても注目されます。館内には、祭祀や演劇で用いられる儺劇の仮面や道具類が展示されており、儺文化の研究・保存において重要な拠点となっています。
建築様式においては、コーラオ族の民家建築技術が活かされ、中国伝統建築の要素と融合している点が特色です。すなわち、中原文化(漢族の中心文化)、地域的特色、さらに少数民族文化が複合的に重なり合い、独自の建築美を形づくっています。
このような歴史的・文化的価値が評価され、2001年6月25日、石阡万寿宮は中国国務院により「全国重点文物保護単位(中国重要文化財)」に指定されました。
補筆・再構成:大橋 直人