鳳凰古城(ほうおうこじょう)は湖南省湘西土家族苗族自治州の鳳凰県に位置し、明・清代の街並みを色濃く残す歴史文化名城です。城内には石畳の小道、吊脚楼(川沿いに建つ高床式木造家屋)、古い城門や城壁などが保存されており、トゥチャ族やミャオ族をはじめとする少数民族が今も生活しています。そのため、この地域は歴史的景観と多民族文化が共存する場として注目されています。
鳳凰古城を一躍有名にしたのは、近代中国文学を代表する作家・沈従文(1902–1988)の存在です。彼はこの地に生まれ、少年期を過ごしました。代表作『辺城』は鳳凰古城を舞台に執筆され、湘西の自然環境や人情風俗を詩的かつ叙情的に描き出した名作として知られています。沈従文は1920年代半ばに創作活動を始め、戦後の1940年代末に断筆しますが、作家としてだけでなく歴史文物研究家としても高く評価されています。
彼が生まれ育った湘西は、漢族・苗族・トゥチャ族が雑居する地域であり、多様な民族文化が交錯する場でした。沈従文自身の言葉によれば、湘西は「ほとんど文化の外」に置かれた辺境であったといいます。しかし、その「文化の周縁」にこそ、彼の文学的想像力を育んだ豊かな土壌があったと考えられています。
現在、鳳凰古城は文学と歴史が融合する観光地として国内外から多くの旅行者を引き寄せていますが、同時に民族学・文化人類学的な研究の場としても学術的意義を有しています。
補筆・再構成:大橋 直人