黔東南州

世界自然遺産・施秉雲台山

2020-05-24

翻訳:張 歓

修正:須崎 孝子

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人



2014年6月23日、カタール・ドーハで開催されたユネスコ世界遺産委員会第38回会議において、広西桂林・貴州施秉・重慶金仏山・広西環江の4地域から構成される「中国南方カルスト(第2期)」が拡張プロジェクトとして「世界遺産リスト」に正式登録された。これにより、施秉は貴州省においてリーポー、赤水に続く第三の世界自然遺産地となった。


施秉における世界自然遺産の中核を成す雲台山は、その重要な構成部分であり、1988年に国家級風景名勝地に指定された。さらに2002年には国家AAAA級観光地として認定され、「中国名山百選」や「国家地質公園」といった称号を得ている。


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雲台山観光区


雲台山観光区は貴州省施秉県北部に位置し、県城から約13kmの距離にある。平均標高はおよそ1,000m、景勝区の総面積は64㎢に及び、このうち21.97㎢が国家地質公園の計画範囲に含まれる。


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主峰である団仑岩は海抜1,066mに達し、山並みの中でひときわ際立つ存在となっている。その山容は「四方を切り立ち、雲の半ばに浮かぶ」と形容され、平坦な頂部が台地のように見えることから「雲台山」の名が与えられた。とりわけ雲海の景観が頻繁に出現することでも知られている。


雲台山観光区は、舞陽河国家級風景名勝区を構成する重要な一部であり、雲台山・外営台・橋頂山・大田丘などの群峰からなる。区域は「雲台山」と「排雲関」の二大景観に区分され、排雲関・筆架山・野牛洞・五指峰・印闘閣・宝石苑・虎背・渡雲橋・周公殿・徐公殿・庵道花・一天花雨・会仙橋など、計24か所の景勝を擁している。


同地には山間植物が約400種確認されており、その多くは珍稀種である。また、貴重な動物も約100種が生息し、生態学的にも高い価値を有する。景観全体としては、白色の石灰岩が塔状の峰を形成し、屹立する群峰が幾重にも連なり、縦横に走る谷間を清流が潤し、豊かな植生が雲煙のごとく繁茂している。その壮大な景観はまさに天然の画巻ともいえる。


さらに、雲台山は原始的な自然生態系や気象現象の奇観に加え、奇峰と清流の調和、美しい仏教遺跡や道教古刹を併せ持つ、自然景観と人文景観が共存する稀有な地である。


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世界自然遺産連盟(IUCN)の専門家による調査の結果、施秉雲台山を中心とするカルスト地形は、極めて稀少かつ学術的価値の高い特徴を有することが確認された。ここで発達した白雲岩カルストは形成が古く、構造が完備しており、かつ広大な分布を示す。その規模と景観の独自性から、「世界で最も美しい白雲岩カルスト」と称されるにふさわしいものである。


施秉カルストの世界自然遺産地域は総面積282.95平方キロメートルに及び、雲台山景勝地、杉木河景勝地およびその水源涵養域を含む。この地域は、溶解しにくい白雲岩基盤の上に形成された峰叢峡谷景観を特徴とし、熱帯・亜熱帯における白雲岩カルストの典型例とされる。とりわけ、湿潤な亜熱帯環境下で発達した錐状峰叢カルストの独自の進化過程を示しており、中国南方カルスト研究に対して重要な学術的貢献を果たしている。


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世界において白雲岩カルストが確認されている地域は限られており、イタリアのパドヴァ国立地質公園もその一例である。しかし同地の白雲岩カルストは氷河作用を受けて植生が乏しいのに対し、施秉雲台山の白雲岩カルストは氷河の影響を免れ、原始林に覆われた景観を保持している。この点において施秉の事例は、カルスト地形の進化史における空白を埋めるものであり、世界的にも唯一無二の学術的価値を有すると国際的な専門家から高く評価されている。


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施秉カルスト世界自然遺産地域は、中国雲貴高原の東部、湘西低山丘陵へと移行する山原斜面地帯に位置する。本地域は、中国の段丘地形における第二級段丘と第三級段丘の過渡帯に属し、河川によって深く切り込まれた亜熱帯カルスト高原である。また、長江流域の烏江水系に属する舞陽河の中流域にあたり、主として杉木河水系および瓦橋河水系が含まれる。


当地の最も顕著な景観は、円錐状の峰叢峡谷およびその頂部に形成された塔状峰林カルストである。ここには、白雲岩カルストの地層・構造・地形・洞窟・地下水系といった地質遺産が極めて良好な状態で保存されている。施秉の白雲岩カルストは、世界の熱帯・亜熱帯地域における代表的事例とされ、約57千万年前に形成された古い白雲岩層を基盤として発達した錐状峰叢峡谷カルストは、白雲岩が特定の自然地理的背景および地殻構造のもとで形成し得る典型的かつ壮観な景観を示している。これにより、「中国南方カルスト」に多様な地形タイプを加える重要な要素となっている。


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施秉の白雲岩カルスト地形は急峻であり、河谷から山頂に至るまでの標高差により多様な微気候を形成している。その土壌環境は、森林・河川・洞穴など多様な生態系の発達を支えており、森林被覆率は実に93.95%に達する。植生は主として原生林の自然更新によるもので、垂直分布や寄生・攀縁植物、さらには生物カルストと呼ばれる特殊な生態適応現象が観察される。


この地域は、古来の遺存的な単系統植物の避難所としての機能を果たし、野生動植物に多様な生息環境を提供することで豊かな生物多様性を育んできた。茂密な原始林が広がるこの地は、生態系の多様性に富み、森林・河川・岩壁・洞穴、さらには農耕地や集落といった複合的な景観を含む。こうした点において、施秉カルストの生態系は「独自性」と「原始性」という二つの顕著な特徴を兼ね備えている。


植生区分としては、亜熱帯常緑広葉樹林帯に属し、とりわけ中央アジア熱帯湿潤性常緑広葉樹林が優占している。このことからも、施秉カルストは地質的価値に加え、生態学的にも極めて重要な地域であると位置づけられる。


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施秉カルスト地域の植生は多様で、針葉樹林、針広葉樹混交林、常緑広葉樹林、常緑落葉広葉樹混交林、竹林、灌木群落など、計8種の森林植生タイプと61群系が確認されている。高等植物は1,351種に及び、内訳はコケ植物50285種、シダ植物25127種、裸子植物722種、被子植物131917種である。これらの中には、国家一級・二級重点保護植物であるイチョウ(銀杏)、メタセコイア(紅葉杉)、カヤ杉(穂花杉)、トウダイグサ科の香果樹などが含まれる。さらに、多くの植物は伝統的中薬材として利用され、例えばベゴニア属植物、タイシ参(太子参)、冬凌草などは薬用価値が極めて高い。


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動物相については、河川群集、河谷のヨシ群落・河原灌木群落、森林群集、竹林群集、岩壁群集、灌木草本群集、農耕地群集、洞穴群集など、複数の生態群集タイプに区分される。脊椎動物は計298種確認されており、魚類17科49種、両生類6科14種、爬虫類10科30種、鳥類41科160種、哺乳類19科45種が含まれる。そのほか、200種を超える藍藻類、豊富な昆虫類および多様な洞穴動物が分布している。


高等植物のうち68種、脊椎動物のうち242種が「中国生物種赤色名録」に登録されており、その相当数は「絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約(CITES)」および国家重点保護野生動植物名録にも掲載されている。本地域は、サル類の群れ、オオサンショウウオ、イノシシ、トビウオ、トレンチ(※要確認:現地名か方言名の可能性)、オオヤマネコなど、数十種に及ぶ希少動物の重要な生息地でもある。


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雲台山は約600年前から仏教の名所として知られてきた。明代、当時「偏橋」と呼ばれていた施秉に居住していた千戸の徐貞員は道教を信奉し、明隆慶丁卯年(1567年)に雲台山を開拓して道教の開山祖となった。以来、同山は400年以上の宗教的歴史を有している。ここは仏教と道教が共存・融合した聖地であり、最盛期には僧侶や道士が260人に達し、寺廟や約8,667アールに及ぶ寺領を有していた。周公廟や徐公殿は雲台山における宗教活動の中心であり、現在もなお旧暦33日には周辺各地から参拝者が集まり、線香を手向け巡礼する光景が見られる。また、周辺には多くの懸崖石刻(断崖に刻まれた石刻遺構)が残されており、重要な宗教文化財として注目されている。


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雲台山一帯は民族色豊かで、多彩な伝統文化が継承されている。ミャオ族を中心とした地域社会では、二月二祭橋節、三月十五姉妹節、五月苗家龍船節、七月卯日捉魚節、さらに「刻道」文化節など多様な祭礼が行われている。このうち、ミャオ族の「刻道」文化は国家級無形文化遺産に登録されており、地域の宗教文化と民族的アイデンティティを象徴する重要な要素となっている。

 

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