堂安トン族生態博物館は、黎平県城からおよそ75km、中国最大規模のトン族集落である肇興からさらに5km離れた場所に位置し、中国で唯一のトン族生態博物館として知られています。
トン族は本来、固有の文字を持たなかったため、建築年代などを記録した文献は存在せず、堂安村の歴史についても詳細は明らかではありません。しかし、村の長老の口承によれば、その起源はおよそ700年前に遡るとされています。現在、村内には約160戸の住居があり、総人口はおよそ800人に達します。村人の姓は「贏」と「陸」が多数を占め、数百年の間、異なる姓をもつ住民同士が争うことなく共存し、平和な共同体を築いてきました。
堂安から肇興に至るまで一面に広がる棚田は、地元の人々が数百年もの歳月をかけて築き上げたものです。季節ごとにその姿を変え、訪れる者に異なる風景を見せてくれます。春には水を湛えた棚田が陽光を反射して銀白に輝き、夏には青々とした稲苗が山の斜面を染め上げます。秋には黄金色の稲穂が一帯に実り、冬になると棚田の一つひとつから炊煙が立ちのぼり、まるで桃源郷を思わせる光景が広がります。
補筆・再構成:大橋 直人