黎平県の地坪風雨橋は、黎平から南へ約109km離れた地坪上寨村・下寨村と甘竜村の間を流れる南江河に架けられています。清の光緒8年(1882年)に建設され、2001年には中国の重要文化財に指定されました。しかし2004年7月、洪水により流失し、2009年5月に修復工事が完了しています。
橋は全長50.6m、幅4.5m、水面からの高さ11mを測り、歩道の両側には長い腰掛けが設けられ、通行人が休憩できるよう工夫されています。さらに、橋上には三基の楼閣が建てられ、中央の楼閣が最も大きく、約5mの高さを持ちます。この中央楼閣は五重屋根を備え、その頂部にはヒョウタンを象った装飾が掲げられています。両端の楼閣は三重屋根で、高さは約3mです。
橋の壁面や天井板には、花鳥図や山水画、さらにはトン族の伝承に基づく物語が描かれ、装飾性の高さを示しています。構造的には釘やリベットを一切用いず、木材の性質を巧みに生かした組木技法によって建造されており、その精緻さは注目に値します。
風雨橋は、トン族の卓越した知恵と独自の建築技術の結晶であり、濃厚な民族的特色を体現する建造物として、トン族建築の代表例にふさわしい存在といえます。
補筆・再構成:大橋 直人