肇興村は、中国貴州省黎平県に位置するトン族(侗族)の大集落であり、伝統的な建築文化が色濃く残る村として知られています。トン族を象徴する建築物としては、川を跨ぐ「風雨橋」と並び、村の中心にそびえる鼓楼が挙げられます。鼓楼は各集落に一棟ずつ築かれるのが通例で、宗族(同じ姓をもつ一族)共同体の精神的中心かつ象徴的建造物とされています。トン族の村落では、小規模な集落であれば住民が単一の姓を共有するため、通常は一つの鼓楼が設けられます。
しかし肇興村の場合、仁・義・礼・智・信の五つの姓をもつ宗族が共存しており、それぞれの一族が独自に鼓楼を建てました。このため、村には五棟の鼓楼が並び立ち、「五鼓楼の村」として広く知られています。これらの鼓楼は、集会、祭礼、芸能活動の場として機能するだけでなく、トン族の社会構造や儒教的価値観の影響を示す重要な文化資源でもあります。
補筆・再構成:大橋 直人