翻訳:林 辛瓊
修正:須崎 孝子
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
紫雲格凸河風景区は、貴州省紫雲ミャオ族・プイ族自治県に位置し、安順市から約103キロメートル、貴陽市中心部からは約164キロメートルの距離にある。ここは貴州省で唯一、省級ロッククライミング運動基地として認定されると同時に、国家級風景名勝区にも指定されている。
「格凸」とはミャオ語で「花踊りの聖地」を意味する言葉である。本景区は典型的なカルスト地形に属し、総面積は約56.8平方キロメートルに及ぶ。景観はカルスト地形特有の山岳・水系・洞窟・岩溶地形・森林など多様な要素から構成され、雄大さ・奇異さ・峻厳さ・幽遠さを併せ持つ。その中には峰林や峰叢、天生橋、穿洞、地下河川、峡谷などがあり、世界的にも稀有なカルスト自然景観と文化景観が共存する地域である。
この風景区では、近年国際的に人気を集めるアウトドア・エクストリームスポーツを体験することができる。たとえば、低空からのパラシュート降下(BASEジャンプ)、ウイングスーツを用いた飛行、ロープを利用したアクティビティなどである。一方、伝統的な文化体験としては、断崖絶壁を蜘蛛のように素手でよじ登る「ミャオ族蜘蛛人」の妙技が挙げられる。これは「剣山に登り、火海を渡る」と形容されるほどの超人的技能であり、現在では地域を代表する無形文化遺産として注目されている。
また、本景区はミャオ族の伝承に由来する「アレル王文化」の舞台でもあり、俗世を離れた理想郷「桃源郷」を想起させる大河苗寨が点在する。さらに、世界的にも類例を見ない大規模な岩溶洞窟「大穿洞燕王宮」では、数万羽のツバメが一斉に帰巣する壮観な景観が見られる。加えて、中国国内で最も深い立坑、世界で最も保存状態の良い古代の交通遺跡である「盲谷の古川道」、さらには「世界最大の鍾乳洞」と称される「ミャオティン」もこの地に存在している。
格凸河風景区は、カルスト地形に特有の山岳・水系・洞窟・石林・森林が一体となって織りなす景観を有し、その雄大さ、奇異さ、峻厳さ、幽玄さが調和している地域である。自然景観と人文景観が融合したまさに錦絵のような風光明媚な地であり、文明の長い歴史の中で古来より希少な自然環境として保たれてきた。ここでは、素朴さや原始的な自然の姿、生態系の豊かさ、そして壮大な景観が一体となり、民俗・文化・歴史・自然など多様な要素が融合している。その結果、規模の大きさと華麗さを兼ね備えた多彩な景観美が数多く形成されている。格凸河は、神秘的なまでに美しい景勝地であると同時に、アウトドア・レジャーに最適な場所であり、訪れる者に心の浄化と俗世からの解放感をもたらす。
1999年8月13日、フランス科学院の地理学者であるリチャード・メイココナッツ博士およびオベイ・べオンズ教授らが、三度目の紫雲地域調査を行った。リチャード博士はその折、「最も美しいカルスト地形は熱帯諸国に集中しているが、中国のカルスト地形は特に貴州省に顕著であり、世界の約70%を占めている。中でも安順地区はカルスト地形が最も多く集中する地域であり、紫雲格凸河のカルスト景観は世界でも屈指の美しさを誇る」と評価している。
格凸河穿洞風景名勝区は、貴重な完全性と多様性を兼ね備え、観光・学術的調査・保養などに極めて高い価値を有する地域である。その景観はカルスト地形の特徴をほぼ網羅しており、独自性と美しさを備えつつ、原始性と神秘性をも併せ持つ。景勝地は「大穿洞」「小穿洞」「大河景区」「黄家湾景区」の四大エリアから構成され、それぞれが格凸河の多様な魅力を体現している。
一、大穿洞観光スポット
1、燕洞(えんどう)
伏流水の入口に位置する第一の大空洞で、高さ116メートル・幅25メートルの巨大な天然アーチの下に、長さ約270メートルの湖が広がっている。洞内には数十万羽に及ぶツバメが群生し、朝夕には洞口を出入りして飛び交う様は壮大かつ圧巻の景観を呈している。
2、穿上洞(せんじょうどう)
古代の地下河川の遺跡にあたる洞窟で、岩壁に懸かるように形成された岩穴の通路から入ることができる。全長137メートル、幅70メートル、高さ50メートルの空間は、航空機がそのまま通過できるほどの規模を誇る。燕洞(燕王宮)の入口より約226メートル高い位置にあり、洞内の地下環境には珍しい低木やつる植物など多様な植生が見られる。
3、盲谷(もうこく)
谷状の凹地形で、長さ約1キロメートル、幅30〜150メートルに及び、周囲を切り立った岩壁に囲まれている。立坑(高さ約20メートル)から谷底へと入ることが可能で、カルスト地形に特有の閉塞性地形(ブラインド・バレー)の典型例として注目される。
4、通天洞(つうてんどう)
炭酸塩岩体を貫く巨大な立坑で、深さ約370メートル、幅200メートルに及ぶ。頭上には天窓のように開口部が広がり、まさに「天空へ通じる洞穴」と形容できる雄大な景観を呈している。
二、大河景区
1、挟山(きょうざん)
大河村と大穿洞の中間に位置する景勝地である。両岸には山々が幾重にも連なり、その中で二つの山塊が切り立つように聳え立ち、あたかも峡谷を挟むような景観を形成している。この孤立峰が直立する独特の地形に因み、「挟山」と名づけられた。
2、大河苗寨(だいがみゃおざい)
大河村は周囲を山々に囲まれ、前方には格凸河が流れ、村内には約百畝の水田が広がる。民家は山の斜面に沿って段状に建てられ、独特の景観をなす。このような自然と人間の調和した環境は、陶淵明の描いた桃花源記を想起させる。すなわち「田畑のあぜ道が縦横に走り、鶏や犬の鳴き声が響く。農作業を行う男女の衣服も外界の人々と変わらない」という、俗世を離れた理想郷のイメージに重ねられる。
村の背後、南へ約500メートルの地点には「変色湖」と呼ばれる神秘的な湖が存在する。カルスト地形に形成されたこの天然湖は、水の色が一ヶ月のうちに幾度も変化することからその名がある。湖は長さ約350メートル、幅約100メートル、標高980メートルに位置し、大河村より約47メートル高い。湖中には三つの湧水口があり、豊水期には自発的に水が排出される。水質は清澄で浄化力に優れ、湖に棲む魚には病気の予防や治療に効能があると伝承されている。さらに秋には蝶が乱舞し、冬には無数のオタマジャクシが群れるなど、豊かな生態系を示している。
3、天星洞(てんせいどう)
紫雲県と長順県の境にある関口砦の近くに位置する洞窟である。入口は高さ約110メートル、幅約40メートルに及び、長方形の大きな開口部をもつ。洞窟の壁面には「石のカーテン」と呼ばれる石灰華の堆積が見られ、自然の造形美を示している。観光客は船で洞内へ入ることができ、洞外の景観と洞内の景観が互いに映り合う様子は特に幻想的である。
4、天星洞葬(てんせいどうそう)
天星洞の入口左側の「干ばつ洞」と呼ばれる支洞に存在する懸棺遺跡である。洞内には自然に形成された三層の段差があり、各段差の高さは約2メートルである。その段上には前方から奥へと順に棺が安置されており、いずれも頭部を洞内側に、足を外側に向ける特異な配置形式をとる。棺材は主にケヤキで作られ、総数は104基にのぼるが、保存状態が良好なものは40基余りである。この懸棺葬はミャオ族をはじめとする少数民族の古代葬制や、カルスト洞窟を利用した埋葬文化の研究において重要な価値を有する。
5、天賜湖(てんしこ)
カルスト地形に形成された天然湖で、その景観は「万緑の森に映る一枚の鏡」と形容される。湖は長さ約350メートル、幅約100メートル、標高980メートルに位置する。湖の中央には三つの湧水口があり、水質は極めて良好で、豊かな自然環境を保っている。
三、小穿洞観光スポット
1、ミャオティン(苗廷)
ミャオティンは貴州省紫雲ミャオ族・プイ族自治県に位置し、現存する世界最大級の洞窟として知られる。総面積は約11万6,000平方メートル、体積は1,978万立方メートルに及ぶ。洞窟の長さは約700メートル、幅は215メートル、高さは平均80メートルに達し、その規模はサッカー場12面に相当する。内部は巨大旅客機ボーイング747が飛行可能なほどの空間を有し、容量の大きさにおいて世界随一とされる。
1980年代、フランスの洞窟学者リシャール博士は専門機材を用いた調査により、貴州省に多数の鍾乳洞が存在することを確認した。1989年、同博士が三度目に紫雲格凸河を訪れた際、ガイドに従い燕洞を探査していたところ、偶然にも別の出口(ダム側)から流出し、新たにこの巨大洞窟を発見したのである。これが「ミャオティン」と命名された契機である。周囲にはミャオ族の村落が広がることから、その名が与えられた。なお、外部研究者による発見以前から、地元のミャオ族はこの洞窟の存在を認知していたと伝えられる。
2014年には英国の研究チームがレーザー測定技術を用いて再調査を行い、ミャオティンの体積が1,978万立方メートルに達することを確認した。2020年3月には日本のNHKが、2年にわたり同地を取材・撮影したドキュメンタリーを放送し、大きな反響を呼んでいる。
2、洞中苗寨(どうちゅうみゃおざい)
小穿洞の出口上方には三つの洞窟が存在し、そのうち「中洞(棕洞とも呼称)」が注目される。中洞の入口は高さ約50メートル、幅100メートル、奥行き200メートルに達する大規模な空間である。この洞窟内には現在も18世帯のミャオ族が居住しており、柱を用いない生け垣式の住居を築いて生活している。内部には小学校や簡易の運動場も設けられており、社会生活の中心地となっている。洞窟内には高さ約3メートルのカエル状の鍾乳石があり、その下から湧き出る清泉は住民と家畜を潤している。これは「穴居文化(洞穴居住)」の典型例として、民族学的にも貴重である。
3、竹林寨(ちくりんざい)
格凸河伏流の中段、山頂部に位置する村落で、高山ミャオ族が居住する。彼らは伝統的に吊脚楼(高床式木造建築)を建てることで知られる。周囲は鬱蒼とした原生林に覆われ、竹林が繁茂し、蔓植物が絡みついて独特の景観を形成している。
4、小穿洞(しょうせんどう)
別名「冒鼓天」とも呼ばれる。入口は高さ約50メートル、幅約40メートル、標高790メートルに位置する。格凸河は長順方面からの支流と合流し、この小穿洞を抜けて流れ出す。洞周辺の景観はきわめて美麗で、カルスト地形が生み出す雄大な自然美を堪能することができる。
四、黄家湾観光スポット
1、古坳平湖(こあおへいこ)
黄家湾ダムの建設に伴い形成された大規模な人工湖で、総面積は約31平方キロメートル、貯水容量はおよそ2億7,000万立方メートルに達する。湖の主航路は全長28キロメートルにおよび、湖中には23の島々が点在している。湖面は広大で、南湖と北湖に分かれ、周囲の青山が碧波に映え、天地と水面が一体となった壮大な景観を呈している。現在では水資源利用や観光資源として重要な役割を担っている。
2、妖岩(ようがん)
坐馬河下流に位置する峡谷地形で、二つの山が向かい合うようにそびえ立ち、その間に狭長な谷を形成している。谷を流れる清流は曲折しながら蛇行し、渓谷美を生み出している。両岸には奇峰が連なり、重層的な峡谷景観が展開される。地形学的にも侵食による典型的な峡谷の一例とされ、景観美と自然地理的価値を兼ね備えている。
3、塔山石塔(とうざんせきとう)
県城東南の高山頂上に位置する石造塔で、清代乾隆49年(1784年)に建立された。建築様式は当時の仏教建築の特徴を反映し、宗教的意義のみならず、地域史や文化史の観点からも重要な価値を持つ。塔山の地名はこの石塔に由来するとされ、今日では地域の歴史文化の象徴として保存・研究の対象となっている。
紫雲の気候と文化
紫雲の気候は亜熱帯湿潤季節風気候に属し、四季の変化が明瞭で、乾季と雨季の区別もはっきりしている。地理的には低緯度に位置するものの標高が高いため、冬は厳しい寒さに見舞われることがなく、夏も酷暑に至らないという温和な気候条件を備えている。
紫雲はミャオ族文化の重要な集積地のひとつであり、同地には三大方言、八つの土語、十五の支系をもつミャオ族が居住している。そのため、風俗、衣装、祭礼などにおいて多様で豊かな文化的特色が展開されている。たとえば、ミャオ族の「花踊り(花山節)」、プイ族の「六月六」歌会や「秋坂急表」、漢族の地劇や花灯遊び、さらには木鼓舞や腰掛け踊りなどが代表的である。これらの舞踊や音楽は、古風で雄大、かつ情熱的で力強い美を体現しており、地域の民俗芸術の特徴をよく示している。
ミャオ族の花踊り祭り
ミャオ族の「花踊り」(ミャオ語では「欧道」=坂を駆け上がる意)は、貴州省西部に居住するミャオ族にとって最も重要かつ伝統的な祭礼の一つである。名称の「花踊り」は、祭場となる斜面に花木を植える習俗に由来し、漢語での表現であり、ミャオ語の本来の意味とは異なる。
この祭りは旧暦の正月に開催され、特に若い男女にとっては重要な社交と婚姻の場となる。祭りの期間、未婚の男性は精緻で華麗な扇を十数本から数十本背負い、踊りながら笙(しょう)を奏でる。未婚女性は銀鈴や銀珠、銀鎖などの装飾品を小袋に収めて身に付け、笙の音に合わせて鈴を鳴らしながらチパ舞を踊り、男女が花木を中心に軽やかに舞い交わる。もし男性が気に入った相手を見つけられなかった場合は、兄弟に代わって踊りに参加させることもあるという。
祭りでは舞踊のほか、花木登り競技、弩(いしゆみ)競射、針仕事の巧みさを競う催しが行われる。さらに武術の演武、牛相撲、闘牛なども披露され、芸能・娯楽と婚姻儀礼が融合した総合的な民俗行事を形成している。
祭りの進行
花踊り祭りは三日間にわたって執り行われる。
⚫︎一日目:祭場に象徴的な「花木」が植えられる。
⚫︎二日目:人々は花木のもとに集まり、本格的に祭礼や競技が開始される。
⚫︎三日目:祭りが終幕すると、参加者や来訪者は周辺の苗族の寨(村落)に集まり、酒宴や音楽を楽しみながら歓楽する。
この際、祭りに用いた花木は寨の族長から長らく子を授からなかった家に贈られる。これは豊穣と子孫繁栄を祈願する象徴的な儀礼であり、受け取った家では盛大に宴を催し、来客をもてなす。若者たちはこの機会を伴侶選びに活かし、年長者は笙や笛を奏でて祭りを盛り上げ、村全体で新年と豊作を寿ぐのである。
このように、花踊り祭りは農耕社会における豊穣祈願の意味合いと、婚姻・社会関係を築く場としての機能を兼ね備えた複合的な民俗行事であり、紫雲を中心としたミャオ族文化を象徴する最も重要な祭礼のひとつと位置づけられる。