仁懐市は、貴州省西北部に位置し、赤水河の中流域にあって四川省と接している。人口は約45万(2018年時点)で、市域は丘陵と峡谷が入り交じる典型的な喀斯特(カルスト)地形に特徴づけられる。
同市は、世界的に知られる中国伝統酒「茅台酒」の産地として著名である。茅台酒は、中国を代表する白酒(蒸留酒)の一種であり、その独特の香気と醸造技法により、清代以降、宮廷への貢納品とされてきた歴史を持つ。特に1951年に国営茅台酒工場が設立されて以降、中国国内外でその名声は確立され、現在では中国国家級の地理的表示保護産品としても登録されている。
さらに、仁懐市は「赤水河流域白酒産業帯」の核心地域を形成し、気候・水質・微生物叢といった地域特有の自然条件が茅台酒の品質形成に大きく寄与していると考えられている。そのため、仁懐は単なる地方都市にとどまらず、中国酒文化を象徴する拠点としての文化的・経済的意義を担っている。
補筆・再構成:大橋 直人