文昌閣は、貴陽市東門の月城に位置し、文昌廟とも呼ばれる歴史的建造物である。明代万暦37年(1609年)に創建され、かつては書籍を収蔵し学問の場として機能したことから、「古代の図書館」とも称される。
建築は高さ約20メートルに及び、一対の配殿と月台を備える。屋根は九角形を呈しているが、その各辺の長さが均等ではなく、不整形の九角形という極めて珍しい様式を採用している。さらに、屋根の優美な曲線、柱や壁面に施された装飾画、精緻な窓の設計などには、中国南方特有の建築美学が色濃く反映されている。
建物は三層構造を持ち、各階ごとに柱や梁を巧みに組み合わせた構造が施されている。これにより、地震の揺れが全体に伝わりにくい耐震性を実現しており、伝統建築における工学的知恵の一端を示すものといえる。
また、敷地内には古銭博物館が併設されており、中国で最初に統一貨幣として鋳造された秦代の「半両」をはじめ、「方足布」「尖足布」など各時代を代表する貴重な貨幣が展示されている。これらは中国の貨幣制度の変遷を理解する上で重要な資料であり、経済史研究においても価値の高いコレクションである。
補筆・再構成:大橋 直人