翻訳:朱 明賢
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
音楽
(1)阿古都(アグドゥ)
「阿古都(アグドゥ)」は、長角ミャオ族において最も愛されている歌唱形式であり、特に恋愛期にある若者たちの間で盛んに歌われています。「阿」は「歌う」を意味し、「古都」は「山歌(山野で歌う民謡)」を指します。すなわち「阿古都(アグドゥ)」とは、山野に響く恋歌であり、自然と一体化した生活の中で培われた民間音楽の代表的な形式です。
長角ミャオ族の少女たちは、13〜14歳になると刺繍やろうけつ染めと並び、「阿古都(アグドゥ)」の歌唱を修得することが求められます。また、15〜16歳の少年たちは、農作業の技術に加え、三目簫(さんもくしょう)、芦笙(ろしょう)、そして「阿古都(アグドゥ)」の歌唱という4つの技能を習得することが伝統的な通過儀礼とされています。
「阿古都(アグドゥ)」の歌詞内容は、農業や日常生活の描写を含むものもありますが、圧倒的に多くが恋愛や感情表現に関するものです。旋律的には、貴州省黔東南地域の「飛歌(フェイガ)」と共通点を持ち、旋律の中心音である「ソル(sol)」と機能音「ド(do)」が旋律構造を形成しています。これら二つの音の緊密な連結によって、リズムに躍動感が生まれます。
一方、「阿古都(アグドゥ)」では「ラ(la)」や「レ(re)」といった音を際立たせることで、より哀愁を帯びた感情表現を強調しており、最終的には「宮輔(きゅうほ)」音(古代中国音楽における旋法の終止音)で終止することが多いとされます。
(2)酒席歌(しゅせきか)
「酒席歌」は、冠婚葬祭などの儀礼的場面で歌われるミャオ族の伝統的民謡の一種であり、主に中高年層によって歌唱されます。この歌は、対唱形式(呼応・掛け合い)で進行し、やり取りの巧拙によって勝敗が決まる即興性の高い芸能です。
「酒席歌」はその豊富で複雑な内容により、聴衆を惹きつけます。主題は大きく歴史的題材と現実的題材に二分されます。前者には、民族神話、伝説、祖先の起源や移動、戦争、歴史上の人物といった幅広いテーマが含まれており、これらを歌えるのは村内のごく限られた長老のみです。こうした歌は長角ミャオ族の言語で歌われるため、非話者にとっては理解が難しく、たとえ中国語で大意を伝えることができたとしても、その詩的・文化的ニュアンスまでを完全に翻訳することは困難です。この点は、言語資料としての酒席歌の研究における大きな障壁ともなっています。
一方、現実的題材の酒席歌は、誕生・成長・病・死といった人生儀礼、農作業をはじめとする日常生活、自然界の事象、あるいは婚礼や誕生祝いなどの社会的出来事を題材としています。現在広く歌われているのは、こうした現実生活に根ざした娯楽的な酒席歌が中心です。
旋律的には「阿古都(アグドゥ)」と比べて音高の変化が少なく、語りに近い抑揚を持つ点で、他のミャオ族支系における叙事詩歌と共通しています。つまり、酒席歌は旋律よりも歌詞(内容)に重きを置く性格が強く、民族の歴史・文化的知識の伝承手段としての機能も果たしているのです。
そのため、音域は一般に六度以内に抑えられ、旋律は比較的平坦で大きな変化を伴わず、同一音形の反復と変奏によって展開されます。歌唱においては、本来の音を忠実に守り、低く短い息で発声するのが特徴です。
長角ミャオ族の楽器
(1)三孔簫(さんこうしょう)
「三孔簫」は、地元の漢民族による呼称で、ホイッスル式の縦吹き管楽器です。演奏方法は中国古来の「簫(しょう)」と類似し、斜めに構えて吹奏します。名称のとおり、管体には3つの音孔があり、この点が大きな特徴です。
長角ミャオ族の人々はこの楽器を自ら「旦然(タンラン)」と呼んでいます。「旦」は竹筒を意味し、「然」は楽器の意を表す語であり、「旦然」はすなわち「竹製の楽器」という意味合いを持ちます。素材は主に竹で、自然素材を活かした簡素な構造ながら、日常生活や儀礼に深く結びついています。
三孔簫は、農村での日常的な娯楽、若者の求愛行為、あるいは季節の祭礼など、多様な場面で用いられ、地域の音楽文化において重要な位置を占めています。
(2)芦笙(ろしょう)
芦笙は、ミャオ族諸支系に広く見られる伝統的な簧(こう)管楽器で、長角ミャオ族においても極めて重要な楽器とされています。現地では、管の長さにより「長芦笙」と「短芦笙」の二種に大別されます。
⚫︎長芦笙は、重厚かつ荒々しい音色を持ち、主に葬礼などの儀礼的な場面で用いられます。
⚫︎短芦笙は、明るく軽快な音色が特徴で、恋愛儀礼や社交活動において盛んに演奏されます。
構造的には、いずれも竹製の笙管と木製の笙斗(音を発するための共鳴胴)を直角に接続したL字型の外見を持ち、他のミャオ族の支系と同様に6本の笙管を備えています。各笙管の内部には銅製のリード(ぜんまい式の舌片)が仕込まれ、息を吹き込むことで振動し音を生じます。共鳴体は基本的に存在しませんが、最長の笙管の先端には子羊の角を取り付けることで弱い共鳴効果を生み出しています。
芦笙は、長角ミャオ族のあらゆる社交儀礼・祭礼活動において不可欠な存在です。特に葬送儀礼「打戛(ダーガ)」においては、芦笙の演奏が死者の魂を祖先のもとへ導くとされ、霊的な意味合いを強く帯びています。芦笙がなければ故人は祖先のもとへ帰れないと信じられており、霊魂観とも深く結びついています。
また、「跳花節(ちょうかせつ)」のような祭りでは、芦笙奏者による独奏、集団演奏、そして即興的な掛け合い(対奏)などが披露され、技術と創造性が競われます。芦笙はまた、客人の歓迎にも用いられます。来客時には若者たちが村の外まで出向き、「迎儀曲(げいぎきょく)」を吹奏し、歌とともに道を塞いで酒を振る舞うなど、儀礼的な歓待の一環として演奏されます。
(3)口弦(こうげん)
口弦は、金属製のリードを用いた小型の単音楽器であり、かつて長角ミャオ族の間で親しまれていた楽器です。地元では、主に銅製の薄いフレーク状の板を用いて作られており、形状は矢尻(やじり)に似ています。サイズは幅約3センチ、長さ約10センチと非常に小型です。
この楽器は内部に可動部を持たず、演奏者がリードを唇にあて、息と指で弾いて振動させることで音を出します。音量は小さく、音色は柔らかく低く、緩やかな響きを持ちます。そのため、主に夜間、若者たちが「走寨晒月亮(村を巡って月を眺めながら語らう)」と呼ばれる恋愛活動の際に用いられていました。
現在では、口弦の使用はほとんど見られなくなり、文化的な実用品としての役割は失われつつあります。しかし、梭戛生態博物館などでその実物が展示されており、消滅した文化ではなく、他の同種楽器の中にその特徴が継承・体現されているともいえます。
(4)木製の鼓(もくせいのつづみ)
木製の鼓は、長角ミャオ族に伝わる伝統的な打楽器の一種であり、葬送儀礼などの特定の場面において重要な役割を果たしています。構造としては、長さ約1.5メートル、直径約0.3メートルほどの丸太をくり抜き、その両端を牛皮で覆って作られます。中空にされた木胴は共鳴体として機能し、打つ部位によって異なる音色を生み出します。
鼓の中央部を打つと、濁りのある重低音が発せられ、遠方まで響き渡るため、かつては集落内での情報伝達や号令の手段として用いられていました。一方、端の部分を叩くと澄んだ高音が響き、古くは舞踊の伴奏楽器としても使用されていたと伝承されています。
現在では、この木製の鼓は日常的には使用されず、主に葬送儀礼における「打戛(ダーガ)」の儀式においてのみ演奏されます。「打戛」とは、長角ミャオ族の死者送りの儀式における中心的な音楽的要素であり、芦笙の演奏と連携しながら、魂を祖霊のもとへ導くという宗教的・儀礼的な意味を持ちます。
この鼓は、各村に一つ程度しか存在しないのが一般的であり、数の少なさは決してその重要性の低さを示すものではありません。むしろ、限定的な用途と儀礼的な神聖性が相まって、住民の間では神聖視・崇拝の対象とされています。
木製の鼓が用いられる「打戛」の音楽は、すでに厳格な形式・演奏順序を持つ体系化された楽儀となっており、その中で木製の鼓は芦笙とともに不可欠な要素として組み込まれています。演奏の際には、打楽器としての単なるリズム提供を超え、霊魂の移動を象徴的に演出する役割を担っていると考えられます。
舞踊
長角ミャオ族にとって、舞踊と音楽は単なる娯楽ではなく、生活と密接に結びついた文化的構成要素である。彼らの多くは文字の読み書きを行わないが、振り付け、旋律、歌詞は世代を超えて自然と受け継がれ、泉のように心の奥底から湧き上がってくる。それゆえ、歌や踊りは長角ミャオ族の人々にとって「生きた記憶装置」としての役割も担っている。
舞踊は、決まった上演の時間と場所において披露され、専用の衣装や道具を用い、一連の規範に基づいた動作が存在する。これらは儀式性、伝承性、規範性といった舞踊の本質的特性を表している。
長角ミャオ族の舞踊は、使用される楽器と密接に結びついており、その名称も楽器に由来している。代表的なものとして、「芦笙舞(ろしょうまい)」と「木製の鼓の舞(木鼓舞)」が挙げられる。なかでも芦笙舞は、「長芦笙の舞」と「短芦笙の舞」の2種に大別される。
これらの舞踊は、いずれも集団で踊られるのが特徴で、独舞(ソロ)はほとんど見られない。長芦笙の舞では、たいてい2名の若者が先頭に立ち、それぞれ長い芦笙を吹きながら舞い、全体の動きを導く。彼らの後方には、男女が縦隊を成して連なり、同じリズムに合わせて舞う。
この舞踊において特筆すべきは、芦笙という楽器の形状と音色が、踊りの動作そのものを制約し、同時に導いているという点である。つまり、舞踊と楽器の関係性は、詩における音韻と形式の関係にも似ている。長角ミャオ族の舞踊においては、芦笙の存在そのものが動作のリズムや構成を規定しており、舞踊の基盤を形成しているといえる。
芦笙舞の動作は、主に足の動きに重点が置かれており、身体全体の動きは芦笙の奏法に自然に従う形で展開される。このような身体と音の連動性は、芦笙およびその音楽に対する深い文化的蓄積と、日常生活における芦笙の役割の重要性を反映している。
長角ミャオ族の舞踊体系が多様に発展してきた背景には、芦笙という楽器を中心とする豊かな音楽文化の存在がある。芦笙舞は、その象徴的表現として、ミャオ族の世界観、信仰、共同体の連帯感を体現するものである。