民族文化

ミャオ族の葬送儀礼

2021-02-18

翻訳:楊 順佳

修正:宮澤 詩帆

指導:王 暁梅、楊 梅竹

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人




葬送儀礼の基本的特徴



ミャオ族社会において、葬儀の規模や儀礼の複雑さは、故人の年齢や死因によって大きく異なる。青少年の死亡の場合は、一般に速やかに埋葬し、正式な葬礼を行わない。一方、天寿を全うした老人の場合は、葬儀は極めて丁寧かつ複雑である。


日常生活の中で老人は敬われる存在であり、その死は家族や親族にとって重大な出来事である。老人が亡くなると、家族は一同に集まり、悲嘆の声を上げて故人を悼む。





葬儀の流れ



葬儀は、呪術師(祭司)が主宰する。まず死者を沐浴させるが、この際には井戸水を用い、洗浄後はその水を人目につかない場所に廃棄する。沐浴後、死者には寿衣(生前に用意された死装束)として上衣・ズボン・靴・靴下などを着せる。


さらに、銭袋や穀物袋を胸の上に置く。これは葬儀に参列する親族や友人が、死者に対して貨幣や穀物を供える際に使用される。


特徴的なのは、死者の歯を一本叩き落とすという習俗である。これは、歯が完全に残っている場合、死者の霊が家に残された家畜や穀物を食い尽くし、さらには生者や友人の魂まで害すると信じられているためである。





埋葬形態



ミャオ族の葬法には以下の主要な形態がある。


⚫︎土葬
土葬は最も一般的な葬法であり、特に乾燥した土地が選ばれる。乾燥地は遺体の腐敗を遅らせ、墓地の長期維持に適するとされる。


⚫︎火葬
火葬は中国古来の葬法の一つで、ミャオ族においては非自然死(自殺、溺死、蛇毒死、難産による死、伝染病死など)の場合に限定して行われることが多い。これは死霊の穢れを地上に留めず、煙とともに天に送るという浄化的意味を持つ。


⚫︎断崖・洞窟葬
湘西(湖南省西部)、黔東・黔北・黔中(貴州省各地)、川南・川東南(四川省南部および東南部)などのミャオ族居住地では、断崖や天然洞窟を利用した葬法も行われてきた。これには、

懸棺葬:断崖絶壁に棺を安置する。

岩洞葬:鍾乳洞や天然の岩窟に棺を納める。
葬地は川や江に面した絶壁が好まれ、これは水流が死者の霊を浄化し、遠くへ運ぶと信じられているためである。




補足


死因による葬法の区別は、ミャオ族の死生観と霊魂観に密接に関連する。自然死は「清らかな死」とされ、土葬によって祖霊の世界へ迎え入れられる。一方、非自然死は「穢れた死」とされ、火葬によって霊を浄化する必要があると考えられている。

歯を抜く習俗は、死者の霊魂が物質世界に過度に影響を及ぼすことを防ぐ呪術的行為であり、他の少数民族の葬送儀礼にも類例が見られる。

断崖・洞窟葬は、物理的にアクセスしにくい場所を墓地とすることで盗掘や野生動物から遺体を守る実利的側面と、地形の霊的象徴性(高所=天界に近い、洞窟=祖先の胎内回帰)という宗教的側面の双方を兼ね備えている。