翻訳:楊 順佳
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
生産・生活に関する禁忌
ミャオ族の伝統的な生産習慣には、多くのタブー(禁忌)が存在し、その多くは自然との調和や生産活動の安全を守るために形成されてきた。例えば、春分の日には鳥を殺してはならず、また薪を伐る際にはカエデの木を切ることを禁じる。これは、春分が生命再生の象徴的時期であること、またカエデが特別な霊的力を持つ樹木と見なされるためである。
山や岩はミャオ族の世界観において極めて重要な存在であり、それらは生計を支える自然基盤であると同時に、祖霊や神々の居場所とも信じられている。したがって、山や岩に対して無礼な行為を行うことは避けられる。
婚姻に関する禁忌
婚姻習俗においては、同じ氏族内での結婚(同族婚)や同姓同士の結婚が忌避される。これは、血縁関係の近い者同士の婚姻を避けるための社会的規範であり、同時に祖先の定めた掟を守る行為とされる。
宗教・信仰に関する禁忌
日常生活の中では、以下の行為が禁じられている。
⚫︎神木を伐採すること
⚫︎神林での狩猟
⚫︎祖先の位牌や神霊への香典台の前で遊ぶこと
これらは聖域を汚す行為とみなされ、両親に孝行しない者には雷神の罰が下ると信じられている。
年中行事に伴う禁忌
ミャオ族の暦年行事、とくに年末年始には数多くの禁忌が守られてきた。
⚫︎除夜(旧暦大晦日)
女性は髪を洗ったり洗濯をしてはならない。これは、翌年の作物が洪水で流されることを避けるための呪術的予防とされる。
⚫︎臘月二十九日から正月初めまで
女性は針を手に取ることを禁じられる。もし破れば、春の農作業の際に鎌で自分や牛の足を傷つけると信じられている。
⚫︎正月初一から初三
耕作をしてはならない。さらに正月十五日も鎌の使用は避けるべき日とされる。
⚫︎春の田耕作時
婦人が天秤棒(収穫物や水を運ぶ道具)の上をまたぐことは禁じられる。これは農具の霊を汚し、作物の生育に悪影響を与えるとされる。
補足
⚫︎これらの禁忌は、自然環境や生産手段に対する畏敬の念と密接に結びついている。自然を擬人化し、神や精霊が宿るとみなすアニミズム的信仰が背景にある。
⚫︎年中行事と結びついた禁忌は、農耕暦と密接に関連し、季節の節目における「清浄」と「穢れ」の管理を目的としている。
⚫︎婚姻禁忌は、遺伝的な近親婚回避の効果を持つと同時に、社会的結束や氏族間の関係調整の役割を果たしてきた。