翻訳:楊 順佳
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
ミャオ族の飲食文化は、地域の自然環境や歴史的背景と深く結びついており、その特色は以下の五点に集約される。
① 酸味を好む食文化
酸味のある料理は、黔東南地域のミャオ族の食生活を象徴する重要な特徴である。古くから「三日間酸味を口にしなければ、歩く足に力が入らなくなる」と言われるほど、酸味は生活に欠かせない味覚であった。代表的な料理には「凱里酸湯魚」(発酵した酸湯を使った魚料理)、酸味唐辛子、酸味大根、唐辛子の発酵調味料などがある。酸味は食欲増進や保存性向上だけでなく、発酵食品として腸内環境を整える機能も持つと考えられる。
② 燻製による保存技術
ミャオ族では毎年の新年(春節)に豚を屠り、祝いの席を設ける。食べきれない肉は燻製にして保存する習慣がある。燻製は長期保存を可能にし、独特の風味を与えると同時に、山間部での生活に適した保存方法として発達してきた。この燻製肉は祭礼や来客時など、特別な機会に振る舞われる。
③ 唐辛子を欠かさない食事
貴州省の人々は総じて唐辛子を好み、ミャオ族も例外ではない。唐辛子は湿気を取り除き、胃腸を温めると信じられており、黔東南の食卓において不可欠な調味料である。日常的に新鮮な唐辛子、乾燥唐辛子、発酵唐辛子など、さまざまな形態で利用される。
④ 酒造りと酒宴文化
ミャオ族の人々は「笙(しょう/中国の伝統的な吹奏楽器)を奏で、酒を酌み交わすことこそ楽しい」と語る。ほぼすべての家庭が自家製酒を造る技術を持ち、種類も豊富である。代表的なものに、梨酒、もち米酒、トウモロコシ酒、天麻酒、サツマイモ酒などがある。酒は婚礼、葬儀、豊作祭など、社会儀礼の中心的役割を果たす。
⑤ もち米を使った主食
ミャオ族の主食はもち米を原料とする食品が多く、特に甘味を加えた餅菓子が好まれる。もち米は腹持ちがよく、祭礼時には着色や型押しを施した華やかな餅が作られる。
補足
⚫︎酸味や辛味の嗜好は、湿潤な山間部特有の気候と密接に関連しており、防腐・殺菌作用のある食品が発達したと考えられる。
⚫︎燻製や発酵食品の利用は、長期保存の必要性と、山間農耕社会における食料確保の知恵を反映している。
⚫︎酒造文化は、ミャオ族の共同体的結束と儀礼性を象徴し、単なる嗜好品以上の社会的意味を持つ。
⚫︎もち米の利用は、稲作文化の影響を強く受けており、祭祀と日常食が連続している点が特徴的である。