民族文化

ミャオ族の医薬文化

2021-02-18

翻訳:楊 順佳

修正:宮澤 詩帆

指導:王 暁梅、楊 梅竹

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人




ミャオ族の医薬文化は、その起源を神話時代にまでさかのぼることができる。伝承には「蚩尤(しゆう)が神薬を授けた」、「神農が百草を味見して薬効を確かめた」、「岐伯と黄帝が医道を論じた」など、薬草や治療法の起源を語る神話が数多く残されている。これらの神話は、ミャオ族の医療文化が古代中国の伝統医学思想と深く交流しながら発展してきたことを物語っている。





燻蒸(くんじょう)療法



燻蒸療法は、ミャオ族医学における代表的な外治法の一つである。薬草を加熱して発生させた蒸気や煙で身体を燻し、病気の予防や治療を行う方法で、発汗促進、殺菌、経絡の疏通などを目的とする。

この療法の起源は、ミャオ族の人々が蒸気や香煙の効能を経験的に理解していたことにある。伝説によれば、古代のミャオ族は特定の薬草を焚くことで邪気を払うと考え、『黄帝内経』や屈原の『離騒』などの古典文献にも、類似の燻蒸法が記録されている。





筋引き療法



筋引き療法は、人体の体表に現れる病根(「毒の根」)を探し出し、それを針でえぐり取ることで病気を治すとされる治療法である。処置の際にはタバコ油(長年使用した喫煙具に蓄積した黒色の油脂)を用いることが多く、これには解毒、肝機能の改善、視力の明瞭化、鎮痛などの効果があると信じられている。





棒打ち療法



棒打ち療法では、まず薬液を患部に塗布し、その上から布やラップで覆う。次に、桑の木で作られた棒を用いて軽く叩くことで、薬効を皮下に浸透させ、血行を促進する。この方法は打撲や筋肉疲労、慢性的な痛みに対して用いられることが多い。





補足



⚫︎ミャオ族の医薬文化は、経験医学と儀礼的要素が密接に融合しており、治療行為そのものが祭祀や呪術と結びついている。

⚫︎燻蒸療法は現代のアロマセラピーや温熱療法と共通する要素を持ち、衛生環境が整っていない山間部での感染症予防にも寄与していた可能性がある。

⚫︎筋引き療法や棒打ち療法のような物理的刺激を伴う手法は、現代医学的にも血行促進や鎮痛効果が推測され、伝統医療の経験的知識の蓄積を示している。