翻訳:楊 順佳
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
ミャオ族の婚姻制度は、基本的に漢族と同様に一夫一婦制を採用しており、血縁や氏族内での婚姻制限(いわゆるおじ婚禁止・同姓婚禁止)が存在する。また、恋愛の自由も比較的認められ、若者同士が自主的に伴侶を選ぶことが一般的である。
1. 恋愛期間(「男女交際」)
婚姻の基礎となるのは、若者同士の恋愛関係である。祭りや歌垣(うたがき)、笙(しょう)を用いた音楽交流、夜祭などが出会いの場となり、この段階で互いの相性や価値観を確かめ合う。
2. 三段階の縁談交渉
ミャオ族の正式な結婚に至るまでには、通常三度の縁談交渉が行われる。
⚫︎第一回縁談
双方の両親が婚約に同意する場であり、この時点で二人は将来の家庭を築くことが公に認められる。三日後、男性は仲人と共に贈り物を携え、女性を一時的に実家へ送り返す儀礼が行われる。
⚫︎第二回縁談(tiao tang)
交際から3〜4か月後、男性側は吉日を選び、贈り物を用意して2名の仲人を派遣し、女性の家を訪問して婚約条件を再確認する。この交渉は現地で「tiao tang」と呼ばれる。
⚫︎第三回縁談
これまでの贈り物をさらに増やし、再度仲人を通じて正式な婚約を結ぶ。最も重要なのは、男性側が結婚式の日取りを定め、女性側に通知することである。
恋愛から結婚までの期間は通常6か月から1年程度、遅くとも2年以内であり、多くの場合、年初に交際を始め、年末に挙式するのが一般的である。
3. 披露宴と儀礼
結婚式当日、仲人は女性の嫁入り道具を夕方までに運び込み、夜半過ぎに花嫁は決められた時刻に新郎の家へ向かう。到着時には火鉢をまたぎ、馬鞍を越える儀礼が行われ、これは邪気を払う象徴である。
式後の宴席には親族や近隣住民が集い、二人の結婚を共同体として承認する。これは事実上の結婚証明の役割を果たす。挙式の三日後には「門に戻り」と呼ばれる里帰りがあり、この際、新郎は新婦側の姉や嫂(あによめ)から冗談交じりの金銭要求を受ける「耳こすり」という風習が行われることもある。
4. 「夫の家に落ちず」の慣習
ミャオ族の一部地域では、結婚直後に花嫁が新郎の家に住み始めることは少ない。代わりに、花嫁はしばらく実家で暮らし、第一子を出産した後に夫の家へ移り住む。この慣習は、女性の実家との結びつきを維持し、出産や育児の初期段階における実家の支援を受けるための社会的仕組みと考えられている。
補足
⚫︎縁談の三段階構造は、ミャオ族社会における婚資(結納品)交換の重要性と、婚姻が家族間の契約であることを示す。
⚫︎火鉢や馬鞍を越える儀礼は、通過儀礼の象徴行為であり、異界から現世への安全な移行を意味する。
⚫︎「夫の家に落ちず」の慣習は、中国南部の少数民族に広く見られ、民族学的には「外婚居制」から「内婚居制」への移行過程の一形態と位置づけられる。