翻訳:楊 順佳
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:大橋 直人
ミャオ族は、歌と舞踊に長け、創造性豊かな民族である。文字をもたず、口承によって神話・伝説・歌謡・物語・叙事詩など豊かな文学作品を後世へ伝えてきた。その口承文学は、日常生活や風俗儀礼と密接に結びついており、ほぼすべての主要な祝祭や儀式において歌が重要な役割を果たす。歌は単なる娯楽ではなく、歴史の記録や道徳の伝達、共同体の結束を強化する機能をもっている。
祭礼と歌
⚫︎鼓社節(こしゃせつ)
ミャオ族の重要な祭礼の一つで、『起鼓歌』『呼呼詞』『換鼓詞』『引鼓曲』などが歌われる。これらは祭祀の進行を示すとともに、祖霊との交流を象徴する。
葬儀歌
葬儀では、出棺前に親族が棺を囲み、故人を悼む『孝歌』や『焚巾曲』を歌う。伯父は『叔母の言葉』を歌い、しばしば死因や故人の人生を回顧する。葬送歌は、死者をあの世へ導くとともに、残された者の心を慰める役割を担う。
婚姻儀礼の歌
婚姻過程では段階ごとに多様な歌が用いられる。
⚫︎定情期(恋愛期):『姓を問う歌』『打診歌』『羨望歌』『物乞い歌』『初恋歌』『未練歌』『合情歌』
⚫︎結納・結婚期:『礼銭歌』『守娘歌』『姉妹歌』『嫁入り歌』『送親歌』『親戚歌』『由嫁男到嫁女歌』『分枝開親歌』『択日開親歌』『大客歌』『姉妹飯を食べる歌』『祝福歌』『離婚歌』
これらは婚姻交渉や嫁入りの儀式に伴って歌われ、当事者の心情、家族間の契約、共同体の承認を象徴する。
歴史叙事歌
『苗族古歌』は、民族の起源や歴史的事件を物語る長大な叙事詩であり、民族アイデンティティの核となっている。
祭礼歌・自然賛歌
『開路歌』『打牛歌』『洪水潮天歌』『カッコウが鳴いた』『花は咲きました』などは、農耕儀礼や季節の変化を祝う際に歌われ、自然と人間との調和を称える。
民話
⚫︎『楊哑の伝説』:ミャオ族の始祖とされる楊哑の物語。
⚫︎『楊魯の伝説』:蚩尤の子孫である楊魯の冒険譚。
⚫︎『谷桃と梭剛の伝説』:勤勉に働く人々を讃える教訓話。
これらは歴史的記憶と道徳教育の両方の機能を果たす。
民族劇・地芝居
黔中地方のミャオ族は独自の舞台芸術を発展させてきた。
⚫︎民族劇:『佳と竜女の物語』『孤女情』
⚫︎地劇(ローカル劇):『五虎鎮定』『二下辺関』
これらは歴史物語や恋愛譚を題材とし、歌・舞踊・芝居が融合した総合芸術として地域文化を支えている。
補足
⚫︎ミャオ族文学は、非文字文化圏における口承伝統の典型例であり、祭祀・通過儀礼・農耕儀礼の中に体系的に組み込まれている。
⚫︎葬送歌や婚礼歌は、歌が儀礼の進行指示書として機能する点で民族音楽学的に注目される。
⚫︎民族劇は、漢族の影響を受けつつも、ミャオ語歌謡と固有の舞踊様式を融合させたシンクレティズム的文化表現と評価できる。