民族文化

苗族(ミャオ族)の建築と農具

2021-02-18

翻訳:陳 応梅

修正:宮澤 詩帆

指導:王 暁梅、楊 梅竹

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人




ミャオ族の建築様式



ミャオ族は、住居の建築材の選定や構造形式において、地域ごとの自然環境や生活様式に根ざした独自の建築文化を形成してきた。住居は木造を主体とするものが多く、一般的に三階建て構造をとる。


⚫︎一階は斜面の凹凸を補正するための基礎的空間で、主に家畜小屋や物置として利用される。

⚫︎二階が生活の中心となる居住空間(正室)で、家族が日常生活を送る場である。

⚫︎三階は穀物の貯蔵庫として用いられ、風通しのよい構造になっている。また、この階には「美人靠(メイレンカオ)」と呼ばれる腰掛けが設けられ、若い女性が腰掛けて外を眺める様子が、婿を迎えるための象徴的な所作とされてきた。






建材と地域差



建築資材の選択は、地域の自然資源に左右される。


⚫︎黔東南ミャオ族地区は森林資源が豊富なため、木造家屋や瓦葺きの家が主流で、草葺きや土壁の家は少ない。

⚫︎黔中南地域では、木造・瓦葺き・草葺き・土壁の家が混在し、特に草葺きや土壁構造が多く見られる。

⚫︎また、一部地域では「杈杈房(チャーチャーファン)」と呼ばれる簡素な住宅様式が存在する。これは室内に家具を置かず、木の骨組みをベッドや座面として利用し、草束をベンチ代わりにする生活様式である。






吊脚楼(ちょうきゃくろう)建築



黔東南や黔北の一部地域には、斜面地に適応した吊脚楼という高床式木造建築が発達している。


⚫︎建設時には、斜面の地盤を「厂(がんだれ)」の形に削り、そこに長い木柱を立てて家屋を支える。

⚫︎地盤の高さに合わせて梁(はり)と貫(ぬき)を組み、床板を敷いて前庁(玄関兼土間)とし、その下の空間は家畜小屋や物置として利用する。

⚫︎前庁の奥にある主屋はさらに二層に分かれ、下層に人が住み、上層は物置とするのが一般的である。

⚫︎屋根は瓦または樹皮で葺かれ、壁は板材や煉瓦で仕上げられる。



補足:吊脚楼は湿気や害虫被害を避けるための高床構造で、東南アジアの山地民族にも類似例が見られる。ミャオ族の吊脚楼は、寒暖差や多雨といった山岳気候に適応した機能性と、地域的美意識を兼ね備えており、集落景観の形成要素としても重要である。






ミャオ族の農業器具


ミャオ族の農具体系は、山地・丘陵地帯の環境条件や、焼畑農耕を主体とした伝統的農業形態に適応して発達してきた。その種類は多岐にわたり、開墾・耕作・施肥・水利・整地・除草・収穫・貯蔵・加工といった農作業工程に応じて、木製・竹製・鉄製の道具が使い分けられる。以下に主な分類と代表的な道具を示す。





1、焼畑と開墾用具



⚫︎鉄斧(てっぷ):樹木の伐採や太い枝の切断に使用。

⚫︎鉈(なた):下草刈りや小径木の処理に用いる。

⚫︎鶴嘴鍬(かくづいぐわ):木柄の先端に円錐状の鍬刃を装着し、硬い地面や根株を掘り起こす。

⚫︎插撬(ちゃくきょう):木柄と鉄先で構成され、地面をこじ開ける用途に用いる。

⚫︎鋤(すき):土を返して雑草や根を除去する基本的な耕作具。



補足:焼畑農耕はミャオ族の伝統的農法であり、森林伐採後に火入れを行い、灰を肥料として利用する。このため、伐採・掘削用具の性能は農作業効率を左右した。





2、土地の耕起用具



⚫︎踏み切り犂(くりすき):足で踏み込んで土を反転させる耕起具。

⚫︎鉄口鋤:鉄製の刃と木柄を組み合わせた鋤で、固い土壌に適応。

⚫︎犂(すき):牛などの家畜に牽引させ、畝立てや耕起に用いる。






3、施肥と水利用具



⚫︎熊手:刈草や堆肥を集める。

⚫︎糞籠:家畜の糞を運搬する籠。

⚫︎天秤棒:両端に籠や桶を吊り下げ、肥料や水を運ぶ。

⚫︎糞槽:肥料の貯蔵容器。

⚫︎筧(かけひ):水路から田畑に水を引く竹製または木製の導水管。

⚫︎水車:流水の動力で水を汲み上げる。

⚫︎魚屋(詳細不明):地域固有の名称で、灌漑または養魚関連器具と推測される。






4、整地用具



⚫︎石耙(いしば):天然石を台座にし、二本の藤輪に紐を結んだ構造。人が肩に紐を担ぎ、水田を往復して土を均す。

⚫︎踩耙(さいば):育苗床専用の木製整地具。両手で梁を握り、両足を端に乗せて使用する。

⚫︎木耙(もくば):全木製で、上梁が手すり、下梁に7~9本の爪を備える。人力または牛で牽引。

⚫︎レーキ(鉄耙):鉄製の爪を持つ熊手状の整地具。






5、除草・畑管理用具



⚫︎木棰(きづち):打撃による整地や作業補助に用いる木槌。

⚫︎小薅鋤(しょうごうじょ):三角形の鍬刃を持ち、畑の除草専用。

⚫︎板鋤(いたすき):板状の鍬刃と長柄を備え、除草や浅耕に適する。

⚫︎竹絆刀(たけばんとう):竹製で、両端に刃を付ける。若草の除去専用で、根は取り除けない。

⚫︎鉄絆刀(てつばんとう):鉄製の刃と木柄を備え、雑草のほか小径木や草根の切断も可能。






6、刈り入れ用具



⚫︎鎌:稲や麦の収穫に用いる。

⚫︎摘刀(てきとう):半円形の板に鉄片をはめ込み、指にはめて使用する小型刈具。

⚫︎谷籠(こくろう):木製の収穫用容器で、上部が広く底部が狭い。刈り取りと同時に穂を叩いて脱穀する。

⚫︎籠:竹や柳で編んだ運搬用具。

⚫︎晒耙(さらしば):長柄の熊手で穀物を広げて天日乾燥させる。

⚫︎晒席(さらしせき):竹編みの長方形マットで、地面に敷いて穀物を干す。

⚫︎塵取り:乾燥後のもみ殻やごみを集める。

⚫︎連枷(れんが):長さ約1.5mの棒状道具で、穀物や蕎麦を打って脱穀する。

⚫︎木棰:打撃用の木槌。






7、貯蔵・加工用具



⚫︎谷囤(こくどん):竹や枝で編まれた小型円形穀物庫。内部に小扉や窓を備える。

⚫︎倉屋(くらや):木造高床式で上下二層に分かれ、上層に食糧、下層に肥料を収納。

⚫︎唐臼(からうす):穀物の脱殻や粉砕に用いる杵臼型の道具。

⚫︎石臼:穀物を粉に挽く石製臼。

⚫︎水碾(みずびき):水流の力で臼を回転させる水車式製粉具。





補足:

ミャオ族の農具は、その多くが地域環境に合わせた改良を重ねたもので、山間部の急傾斜地や水源条件に適応している。また、竹・木・鉄といった素材の使い分けは、入手容易性と加工技術の発展度を反映しており、同じ道具でも地域によって形状や大きさに差がある。これらの農具は単なる労働道具ではなく、生活文化や地域間の交流史を示す民俗資料としても重要である。