民族文化

ミャオ族の音楽と舞踊

2021-02-18

翻訳:陳 応梅

修正:宮澤 詩帆

指導:王 暁梅、楊 梅竹

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人




ミャオ族の伝統音楽




1、ミャオ族の飛歌(HXak Yeet)



「飛歌」とは、ミャオ族の民族音楽の一形態であり、中部方言ミャオ語では HXak Yeet と呼ばれる。主に貴州省台江県、剣河県、凱里市などを中心とする地域で歌われ、音域は高く、旋律は豪快かつ奔放で明朗である。谷間に響き渡るその歌声は強い感染力をもち、聴衆を巻き込むエネルギーを有する。


飛歌は祝祭や歓迎・送別など、人々が集う場面で多く歌われ、景色や出来事に触発されて即興的に歌詞を作ることもしばしばである。歌詞のテーマは、称賛・感謝・励ましといった肯定的感情が中心であり、苗年(ミャオ族の新年)やドラゴンボート競漕などの祝祭では必ずといってよいほど披露される。代表曲には『故郷を賛美する歌』や『祝福歌』などがある。


補足(音楽学的観点):飛歌は五音音階を基盤としつつも、歌い手の即興による音高変化や節回しが特徴的であり、旋律構造には地形的環境(山間部の反響効果)が影響していると考えられる。また、歌唱は個人独唱が基本だが、周囲の人々が合いの手を入れることで集団的表現へと発展する場合も多い。





2、ミャオ族の古歌



ミャオ族の古歌は、歌唱に厳格な規範が伴う伝承歌であり、先祖祭祀、葬儀、親族・友人の集会、あるいは重要な祭礼といった重大な場面でのみ歌われる。歌い手は多くが中高年の熟練者や呪術者(シャーマン)、あるいは専門歌手である。


古歌は大きく以下の五部に分類される。


1.『金銀歌』

2.『古楓歌』

3.『蝶歌』

4.『洪水滔天』

5.『遡河西遷』



これらは原始神話や伝説を母胎として発展した叙事詩であり、長年の生産活動や生活経験を通じて創造された民族史詩と位置づけられる。歌詞は一問一答の「盤歌」形式をとることが多く、天地創造、万物発生、人類の起源、民族の移動史、古代社会制度や日常生活に関する知識が語り込まれる。


補足(民俗学的観点):ミャオ族古歌は、口承文芸として民族の歴史認識や世界観を保持する役割を果たしている。たとえば『洪水滔天』は洪水神話を通じて自然災害と再生の物語を語り、『遡河西遷』は歴史的な移住経路や他民族との接触史を暗示する。これらは単なる物語ではなく、自然現象や社会構造の説明原理として機能し、民族的アイデンティティの形成に寄与してきた。






ミャオ族の舞踊



ミャオ族の民間舞踊には、蘆笙舞(ルーシェン舞)、銅鼓舞、反排木鼓舞、錦鶏舞、湘西鼓舞、板笙舞、古テントウ舞など多様な様式が存在する。その中でも、最も広く知られ、民族を象徴する舞踊が蘆笙舞である。これらの舞踊は、単なる娯楽ではなく、祭礼・儀礼・社会的交流の場で重要な役割を果たしてきた。




1、蘆笙舞(ルーシェン舞)



蘆笙舞はミャオ族を代表する舞踊であり、人々が最も愛好する民間芸能である。蘆笙は複数の竹管を組み合わせた自由簧(じゆうこう)式のリード楽器で、中国南部少数民族の伝統楽器の中でも特に広い分布をもつ。蘆笙舞は以下の三形態に分類される。


1.大衆性蘆笙舞
 最も広く普及している形式で、祝祭の日には村人が蘆場に集まり、大編成の蘆笙隊の伴奏で踊る。蘆笙隊は「一」の字型隊列を維持し、その場で演奏し続ける。観衆はその周囲を円形に囲み、男女がそれぞれの所作で踊る。男性は俊敏で力強い動作、女性は軽やかで優美な動きが特徴で、女性の銀飾りが身体の動きに合わせて涼やかな音を響かせる。


2.演技性蘆笙舞
 演奏と舞踊を同時に行う高度な技術を要する形式。集会や祝祭において競演・演技として披露される。旋律は明朗でリズムが明確、動作は複雑で技巧的であり、習得できる者は限られる。


3.風俗性蘆笙舞(花踊り・月踊り)
 青年男女の恋愛交流を反映した群舞で、男性が蘆笙を吹きつつ踊り、女性は舞いながら刺繍を施した花帯を、好意を寄せる男性の蘆笙に結びつける。この行為は求愛の象徴であり、舞踊そのものが社会的コミュニケーションの媒体となっている。



補足(民族音楽学的観点):蘆笙舞の旋律構造は五声音階を基礎とし、即興性の高い装飾音が特徴である。また、隊形や動作は村ごとに固有のパターンを持ち、地域的多様性が顕著である。





2、銅鼓舞



「ノンニウ」(直訳すると「鼓を食べる」)とも呼ばれ、「苗年」や「蘆祭」といった大規模な祝祭で披露される。銅鼓の打撃パターンが舞踊のステップや隊形変化を指示し、その動作は60〜70種類に及ぶ。隊形は円形、半円形、直線、方形、交差形など多彩で、ステップは力強く、動作幅が大きい。舞の最高潮には踊り手が高く跳躍し、太鼓手が掛け声を発する場面もあり、豪放で素朴なミャオ族の気質を体現する。


補足(舞踊人類学的観点):銅鼓舞は単なる芸能ではなく、集団の一体感を形成し、戦士的勇壮さや祭祀的荘厳さを象徴する儀礼的舞踊でもある。





3、反排木鼓舞



反排木鼓舞は二拍子の律動を基調とする儀礼舞踊で、「牛高抖」「牛扎厦」「厦地福」「高抖大」「扎厦缛」の5章構成を持つ。たとえば「牛高抖」は祖先の東から西への移動と、その険しい旅路(山越え、川渡り、昼夜の行軍)を表現し、「厦地福」は遠方の親族や友人との再会の喜びを描く。各章には独自のステップや回転動作があり、物語性が強い。





4、錦鶏舞



錦鶏舞は12年に一度の祖先祭祀で中心的役割を担うほか、婚礼や客人の歓迎、月踊りなどでも披露される。女性は髪を高く結い、錦鶏を象った銀飾りを頭に挿し、刺繍入りの短いプリーツスカート、銀製の首輪や腕輪を身に着け、錦鶏の優雅さを表す衣装で舞う。蘆笙は特大から小型まで4種が用いられ、百曲以上の豊富なレパートリーが存在する。踊り手は反時計回りに円を描き、女性の飾りが揺れ、軽やかな足運びは餌をついばむ錦鶏を想起させる。


補足(象徴論的観点):錦鶏は美と吉祥の象徴であり、この舞踊は祖先崇拝と豊穣祈願の双方を担う儀礼的性格を有している。