民族文化

ミャオ族の宗教信仰

2021-02-18

翻訳:楊 国花

修正:宮澤 詩帆

指導:王 暁梅、楊 梅竹

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人




ミャオ族は古くから独自の宗教的世界観を形成してきました。長い歴史の過程で地域ごとに差異が生じ、一部の地域では外部からの影響をほとんど受けず、原始宗教的信仰を保持している一方で、近代以降、交通や宣教師活動の影響を受けた地域ではキリスト教やカトリックへと改宗した例も見られます。たとえば、威寧・石門坎・湘西沅陵などの地域がその典型です。しかし全体としては、依然として多くのミャオ族が伝統的な原始宗教を信仰しており、そこには自然崇拝、トーテム崇拝、祖先崇拝、鬼神信仰が含まれます。





自然崇拝



ミャオ族は天・地・日・月といった天体に加え、巨石・大木・竹・山岩・橋などの自然物を崇拝してきました。とくに農耕と深く結びついており、雲南省金平・麻栗坡のミャオ族は、農作物が出穂するたびに「天公地母」を祭り、天地の神霊に豊作を祈願します。これは自然と人間との調和を重視する伝統的農耕儀礼の一環と位置づけられます。





トーテム崇拝



ミャオ族は多様な支系に分かれ広範囲に分布しているため、トーテム崇拝の対象も地域ごとに異なります。


⚫︎鳳凰・楓の木・蝶・神犬(盤瓠)・竜・鳥・鷹・竹などが代表例です。

⚫︎黔東南の一部では楓の木を祖先の象徴とみなし、自らの起源を楓に求めています。

⚫︎湘・鄂・川・黔の境界地域では、古代神話に登場する犬の英雄「盤瓠」をトーテムとし、現在も盤瓠廟や辛女宮が残されています。

⚫︎また、貴州西部のミャオ族は鳥をトーテムとする信仰を持ちます。



こうした多様なトーテム信仰は、ミャオ族の起源神話や口承文芸にも色濃く反映されており、民族的アイデンティティの形成に寄与してきました。





祖先崇拝



祖先崇拝は今日に至るまでミャオ族の宗教文化において重要な位置を占めています。


⚫︎黔東南のミャオ族は当初、楓や蝶を崇拝対象としていましたが、後に人類の始祖とされる姜央へと移行しました。鼓社には「鼓石窟」が設けられ、「央公」「央婆」を祭ります。

⚫︎湘西のミャオ族は「儺公」「儺母」を始祖とし、祖霊の加護を祈るための儀礼を継承しています。



祖先祭祀は牛を供犠とする大規模な儀礼として執り行われることが多く、地域によって呼称が異なります。


⚫︎黔東南の「鼓社節」や銅仁・松桃の「椎牛(牛を槌で屠る儀礼)」

⚫︎安順・鎮寧などでの「牛を切る」儀礼

⚫︎湘西の「還儺願」



これらはいずれも祖先霊に感謝と祈願を捧げる重要な宗教的実践です。





巫儺文化(シャーマニズム)



ミャオ族は数多くの鬼神の存在を信じており、それらは善神と悪鬼に区別されます。


⚫︎善神は人々に福をもたらす存在であり、定期的な祭祀によってその加護を得ると考えられています。

⚫︎悪鬼は災いや病をもたらす存在とされ、これを祓うために呪術的儀礼が必要とされます。



ここで重要な役割を果たすのが巫師(シャーマン)です。巫師は人間と鬼神の仲介者として、占い・厄払い・招魂などの儀式を司り、共同体の精神的支柱として尊敬を集めてきました。巫師の活動は、ミャオ族社会における宗教的秩序の維持と文化継承の要であると同時に、今日の民俗学・宗教学においてもシャーマニズム研究の重要な対象とされています。