民族文化

花苗族

2021-02-16

翻訳:楊 順佳

修正:宮澤 詩帆

指導:王 暁梅、楊 梅竹

監修:姚 武強

補筆・再構成:大橋 直人



花苗(花苗族)はミャオ族の一支系であり、その特色はきわめて華やかな衣装文化にあります。女性は銀製の簪(かんざし)を髪に挿し、さらに刺繍を施した布を頭に巻き付けて装います。衣装には多彩な刺繍文様が施されており、全身を彩る鮮やかな意匠がその名の由来となっています。この独特の刺繍技法は「挑花刺繍」と呼ばれ、花苗文化の象徴的要素の一つです。花苗族の人口は主に湖潮郷・党武郷・石板鎮・花渓郷に集中し、その他、烏当区・清鎮市・修文県・平壩県などにも分布しています。


花苗1.jpg


挑花刺繍の技法


「挑花刺繍」は、十字を基本単位とするクロスステッチに類似した縫法を基礎とし、下絵を用いずに布目を数えながら刺繍する点に特徴があります。図案はあらかじめ紙に描かれるのではなく、刺繍者の心の中に保持されており、外枠を縫い出したのち、内部に少しずつ文様を加え、最後に細部を充填して完成させます。この過程は「裏で刺して表に図を見る」と表現され、直観と経験に基づく高度な技術と記憶力を必要とします。かつては先祖や民族的記憶を象徴する文様が中心でしたが、近代以降は個人の美的嗜好や生活環境を反映する自由な表現へと展開しています。


花苗2.jpg


歴史的起源と伝説


伝承によれば、花苗族はかつて「グログサン」(現・貴陽)に定住していました。しかし、ある年の旧暦四月八日、外部勢力の侵攻によって首領を失い、住居を焼き払われ、人々は花渓周辺へと退却を余儀なくされました。再度奪回を試みたものの失敗し、その記憶は民族的悲劇として刻まれました。以来、旧暦四月八日は殉難した英雄を追悼する記念日となり、花苗族はこの日に盛装して祭礼を行います。衣装に施される多様な刺繍文様は、失われた家屋や農作物、家畜、草木、鳥獣を象徴的に表現するもので、過去の記憶と民族的アイデンティティを衣服に織り込む文化的実践といえます。今日見られる文様には、牛・羊・犬の頭部、雪花、稲穂、銅鼓、灯籠、銅銭、太陽、蟹、燕、楼閣、田園、橋、川など、自然・生活・宇宙観を反映する多彩なモチーフが含まれています。


花苗3.jpg


跳花祭り


毎年旧暦正月初一から十五日にかけて、花苗族は「跳花祭」と呼ばれる盛大な祭礼を行います。貴陽周辺の各村が順番に祭礼を主催し、歌舞の上演、闘鶏・闘牛、対歌、笛の演奏など、多様な民俗芸能が繰り広げられ、地域全体が祝祭空間となります。この祭りは単なる娯楽の場ではなく、青年男女の交際の契機ともなっており、男性が蘆笙を吹いて女性に思いを伝える習俗が今も続いています。とりわけ、花渓区磊荘村の黒石頭寨および烏当区石頭寨での跳花祭は規模・華やかさにおいて群を抜き、民族文化の象徴的行事として知られています。




学術的補足


⚫︎花苗の刺繍は、文化人類学的には「衣装を通じた記憶の媒体」と位置づけられ、失われた故地や英雄の記憶を視覚化する役割を担ってきました。

⚫︎「挑花刺繍」は図案を心に刻む「無下図型刺繍」として、記憶と技術の世代間伝承を象徴する無形文化遺産的価値を持ちます。

⚫︎跳花祭は宗教儀礼・娯楽・婚姻儀礼が結合した「総合祭礼」として、中国南部少数民族の祝祭文化の典型例とされています。