民族文化

地劇

2020-02-13

地劇(ちげき)とは、中国南西部に伝わる民間演劇の一形態である。その名称は、専用の舞台を用いず平地を舞台として演じられることに由来する。現在も主に貴州省安順市一帯、とりわけ屯堡人(とんぽじん)の居住する村落において盛んに行われている。


その起源は明代初期にまでさかのぼる。当時、この地域に駐屯した軍隊が演じていた仮面劇に由来するとされ、やがて民間に伝播し、独自の様式を確立した。俳優は木製の仮面を額に装着する点に特徴がある。これは、一般的な仮面劇のように顔全体を覆うのではなく、舞台が観客席より低いため、観客からよく見えるよう額に付ける工夫である。さらに、役者は背に軍旗を負い、手には木製あるいは鉄製の武器を携え、中国の歴史上の戦闘場面を再現する。


演目の多くは『三国演義』や『薛仁貴東征』などの歴史物語に基づき、勇壮な英雄人物の姿を謳い上げる。こうした点から、地劇は軍事文化・英雄叙事・民俗芸能が結びついた独特の芸能といえる。


近年ではヨーロッパに招聘され公演を行い、高い評価を得たこともある。その古風な上演形態と歴史的背景から、「生きた演劇の化石」とも称され、演劇史・民俗学の両面から極めて貴重な文化遺産として注目されている。 



補筆・再構成:大橋 直人