儺戯とは、地域社会において巫(ふし)が主宰する儀礼的な演戯であり、主として各家(イエ)からの要請に応じて執り行われるものである。儺戯を担う巫は、一般に男性が中心で、四〜五名ほどの小集団を編成することが多い。彼らは音楽と舞踊、さらに神霊にまつわる詞章(口承の呪文や伝承詩)を駆使して、神々を歓待し、家々の祈願や感謝の意を神霊に伝える役割を果たす。こうした儀礼は、共同体の安寧や祖霊との交流を維持する重要な機能を持つ。
儺戯はもともと中国古代の「儺(な)」と呼ばれる悪霊を祓う行事に由来し、宮廷儀礼から民間へと広がり、各地で独自の展開を遂げてきた。とりわけ黔東北部の銅仁市では、その伝統が色濃く残っており、市内の東山寺には「東山寺儺文化博物館」が併設されている。ここでは、この地域に伝わる儺戯の文化や歴史が紹介されており、観光客は実際に「儺戯」と呼ばれる地元劇を鑑賞することもできる。
補筆・再構成:大橋 直人