貴州飲食

糸娃娃(スーワーワー)

2020-05-11

翻訳:劉 治江

修正:須崎 孝子

監修:姚 武強

補筆・再構成:CJ NaoTo


1589188961.png



「糸娃娃(スーワーワー)」は、貴州省の省都・貴陽で広く親しまれている伝統的な軽食のひとつで、しばしば「ベジタリアン春巻き」にもたとえられます。細切りにした野菜、昆布などの具材を小麦粉で作った薄い皮で包んで食べるもので、その巻いた形が、まるで御包みに包まれた赤ん坊のように見えることから、「糸(細切り)+娃娃(赤ん坊)」と名づけられました。


具材を包むための皮は「娃娃皮(ワーワーピー)」と呼ばれ、手のひらほどの大きさで、紙のように薄く、小麦粉を主原料として作られたクレープ状の皮です。その製法には地域や家庭ごとに多様なバリエーションがあります。


提供の際には、食卓に「娃娃皮」が小皿に盛られ、併せて特製の辛味ソースをボウルに入れて添えられます。このソースこそが「糸娃娃」の味の決め手であり、店舗や家庭によって独自の調合がなされています。さらに、テーブルには千切りにした多種多様な食材が、彩り豊かに並べられます。


食べる際には、餃子や北京ダックの皮にも似た「娃娃皮」を手に取り、好みの千切り野菜などの具材を包み、辛味ソースを加えて巻いて食べます。使用する食材の組み合わせによって風味が毎回異なるため、まったく同じ味になることはなく、その都度異なる美味しさを楽しめるのも魅力の一つです。具材を自ら組み合わせて食すという体験そのものが、この料理の大きな醍醐味となっています。


1589189221(1).png


貴陽の人々と「糸娃娃」の味覚文化


貴陽の人々が「糸娃娃(スーワーワー)」を楽しむ理由は主に二つあります。一つは、さまざまな野菜によって生まれる食感の妙——シャキシャキとしながらも柔らかな口当たり。もう一つは、漬け込んで熟成された食材や調味料による、ピリッとした辛味とほどよい酸味が織りなす爽やかな味わいです。「糸娃娃」は、外はしっとりとしながらも軽やかで、辛味と酸味が調和した食欲をそそる風味が特徴です。貴陽のほぼすべての通りでその姿を見かけることができるほど、非常に人気のあるスナックです。



一、「娃娃皮」の作り方


1、小麦粉6に対して1の割合で水を加え、少量の塩を加えて手でよくこねます。フライパンを熱して表面に薄く油を引きのばすようにして、一面に塗る。いったん火から下ろして表面を少し冷まします。生地をフライパンに薄くのばし、直径約9cmの円形の皮を作ります。


※この薄皮を美しく作るには、水と小麦粉の割合を正確に把握し、生地をフライパンに薄くのばす動作も素早く行う必要があります。

技術を要するため、一般家庭ではなく、通常は店舗の専門職人によって作られています。


2、出来上がった皮は、蒸し器に入れて蒸し、しっとりと柔らかく仕上げます。



二、主な具材(原材料)


⚫︎小麦粉で作った「娃娃皮」

⚫︎昆布の千切り、サワーラディッシュ(酢漬け大根)、マスタード、きゅうり、春雨、緑豆もやし、大豆の炒め物、豚肉の唐揚げ、ドクダミ、セロリ、わらび、冷麺、レタス、揚げ大豆、揚げピーナッツ、酸味のあるささげ豆 など



三、調味料(辛味ソース)


⚫︎チリパウダー、ジンジャーオイル、ザントキシラム油(山椒油)、ごま油、塩、醤油、酢、香料エッセンス、ネギ、しょうが、にんにくエキスなどを好みの分量で調合します。



四、「糸娃娃」の食べ方


1、店では、あらかじめ醤油や酢を冷水で割った辛味ソースが提供されます。一般的に、醤油または酢に対する冷水の割合は1.5:1です。そうすることで、濃すぎず、辛味と酸味が引き立ったバランスの良い風味になります。


2、好みに応じて、さまざまなスパイスを加えて自分好みのソースを調合します。


3、「木姜子油(ムージャンズーユ)」という、中国南方原産の植物から作られる香り高い油を加えると、さらに風味に深みが出ます。


4、漬けた唐辛子は、他の香辛料をよく混ぜてから最後にふりかけると、唐辛子の香りが引き立ちます。先に入れてしまうと、他の調味料の味が唐辛子に染み込んでしまい、独特の風味が損なわれることがあります。


5、手のひらに「娃娃皮」を広げ、好みの具材——細切りの昆布、サワーラディッシュ、マスタード、きゅうり、春雨、緑豆もやし、大豆炒め、豚の唐揚げ、セロリ、ドクダミ、わらび、レタス、揚げ大豆、揚げピーナッツ、ささげ豆などを彩りよくのせ、辛味ソースを少量加えて巻けば完成です。


食べる際は、手に付いた辛味ソースで目をこすらないよう注意しましょう(多くの店舗ではウェットタオルが提供されます)。


1589189599(1).png

 

糸娃娃(スーワーワー)の魅力


「糸娃娃(スーワーワー)」を提供する屋台の光景は、実に壮観で色彩豊かだ。テーブルの上には、千切りの漬け野菜、昆布、ピーナッツ、炒りごま、香菜など、さまざまな食材が美しく盛られており、それぞれの食材が調和を保ちながらも色鮮やかに主張しあっている。赤、黄、緑、白、紫、黒――目の前に広がる多彩な色と香りは、見る者の食欲をそそる。買い求める人々の表情は期待に満ち、具材を選んで包む手つきは慣れた様子で、活気にあふれている。この賑わいに触れれば、誰しも一度は味わってみたくなるに違いない。


初めて糸娃娃を体験する人の多くは、地元の友人に誘われて屋台を訪れる。すると、調理台の向こうから店の人が「いくつ?」と声をかけてくる。これは、地元特有の聞き方だが、初めて訪れた者にはその意図がすぐに飲み込めないことも多い。


目の前には「赤」や「緑」と書かれた表示板が掲げられているが、それが何を示しているのかは、一見して分かりにくい。思わず「一つください」と口にしてしまうが、この場における「一つ」が何を指すのか。実は、「娃娃皮(ワーワーピー)」と呼ばれる皮10枚分を単位とした注文方式を意味しているのだ。


この「娃娃皮」は、見た目こそ餃子の皮に似ているものの、実際にははるかに薄く、糸娃娃のために特別に用意された、きわめて繊細な生地である。


皮を受け取ると、主人から小さなボウルが手渡される。このボウルに自ら調味料を調合していくのが、糸娃娃ならではの楽しみ方である。用意されているのは、醤油、酢、唐辛子、胡椒、刻みネギ、刻みニンニク、ごま油、そして門外不出の秘伝の調味料など。中でもこの秘伝の調味料こそが、その店の評判を左右すると言っても過言ではない。


さて、先述したテーブルに目を向けると、ずらりと並ぶ具材に誰もが圧倒されるだろう。初めて訪れた人にとっては、その種類の多さに目を見張るはずだ。客一人の前に20種類以上の食材が用意されており、その色とりどりの素材を眺めているだけでも楽しい。細切りの昆布、サワーラディッシュ、マスタード、きゅうり、春雨、緑豆もやし、大豆炒め、豚の唐揚げ、セロリ、ドクダミ、わらび、レタス、揚げ大豆、揚げピーナッツ、ささげ豆など、多種多様な具材が並び、自由に選び取るその過程こそが、糸娃娃の醍醐味である。


それぞれの具材の組み合わせによって、まったく異なる風味と食感が生まれ、個々の糸娃娃に個性を与えていく。まさに、一人ひとりの味覚と感性が反映される即興の料理――それが糸娃娃の真骨頂ともいえる。




糸娃娃(スーワーワー)の正しい食べ方


糸娃娃を美味しく食べるためのコツは、決して皮いっぱいに詰め込みすぎてはいけません。赤ちゃんを御包みにくるむように、慎重かつ丁寧に包むのが肝心です。


具体的には、まず具材を皮の中央に載せ、下部を折りたたんでから、上部を立てて包み込むようにします。こうすることで中身がこぼれにくくなり、小さな野菜なども安定して収まります。


包み終えたら、小さなスプーンで特製の辛味ソースをすくい、赤ちゃんの頭にあたる部分から全体にかけて回しかけます。この秘伝の調味料は、辛味のなかに複雑な旨味を含み、野菜全体に染みわたっていきます。

食べる際には、パリッとした食感と香ばしさ、そして多層的な辛味が口の中で一体となり、まさに絶妙な味わいが楽しめます。


古くから、「糸娃娃は美味しいが、包むのが難しい」と言われてきたように、この料理は繊細な技が求められる、まさに“芸”のような一品なのです。


1589189165(1).png


貴陽料理における味覚体系と「糸娃娃(スーワーワー)」


貴陽市の人々は、料理において「味」と「食感」に対して並々ならぬこだわりを持っており、それが同地独自の味覚体系を形づくっています。この体系は主に「辛味」と「酸味」の二つを柱として構成されており、料理に複雑な奥行きと深みを与えています。


なかでも注目すべきは、単に辛い・酸っぱいだけではなく、貴陽特有の調味料――たとえば「辣椒油(ラージャオヨウ)」に代表される辛味オイルの存在です。この辣椒油は、単なる唐辛子の辛さとは一線を画し、香り高く、コクのある風味を持つのが特徴で、市内では知らぬ者がいないと言っても過言ではありません。

貴陽では、「ただ辛いだけ」の調味料では美味とされず、それぞれの家庭や店が代々受け継いできた独自の配合で作られた辛味ソースこそが、料理の味を決定づける重要な要素となっています。つまり、辛味と酸味のバランス、そしてそれを支える秘伝の調味料こそが、貴陽料理の真髄であり、人気軽食「糸娃娃(スーワーワー)」にもこの味覚哲学が色濃く反映されているのです。


現在では「糸娃娃(スーワーワー)」は洗練された料理として位置づけられ、結婚式などの正式な場でも提供されることが少なくありません。その背景には、地元文化の魅力を発信したいという思いや、「娃娃(赤ちゃん)」という親しみやすい名称が影響しているのかもしれません。


中に包まれる野菜は、シャキシャキとした歯ごたえとしなやかな食感を併せ持ち、辛味と酸味が絶妙に調和しています。一口食べれば、口の中から胃腸にかけて爽快感が広がり、身体の内側から心地よさが満ちてくるような感覚が得られるのです。





◆糸恋紅湯糸娃娃(店舗名)


特徴:

味・サービスともに定評があり、一度食べたら忘れられないおいしさの「糸娃娃(スーワーワー)」。清潔で快適な環境と、心のこもった接客も魅力のひとつです。


所在地(各店舗):


⚫︎花果園店:花果園ショッピングモール1階 1-10-1

⚫︎銀座店:中山東路40号 小十字銀座ムービーシティ 地下1階

⚫︎鴻通城店:貴陽市南明区解放路100号 鴻通城ショッピングモール4階

⚫︎南国花錦店:貴陽市雲岩区中華中路130号 南国花錦ショッピングモール7階

⚫︎星力広場富水南路店:貴陽市南明区富水南路2号 星力ショッピングモール地下1階




◆楊おばさんの糸娃娃(飛山街店)


特徴:

地元・貴陽市民の味覚に合うよう工夫された風味が特徴で、30年以上の歳月をかけて研究・改良を重ね、貴州地方の伝統的なスナック文化と融合させた「糸娃娃」が提供されています。地元民からも旅行者からも支持が厚く、貴陽で糸娃娃を味わうならこの店と評される人気店です。連日多くの来店者で賑わっており、遅い時間帯に訪れると、外のベンチで順番を待つこともあります。


所在地:

貴陽市雲岩区飛山街214-2


1589189440(1).png